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「学者にわざと間違ったことをしゃべらせて…」トンデモ取材にあ然、歴史学者がテレビ番組の制作手法に感じた“危うさ”

『室町ワンダーランド あなたの知らない「もうひとつの日本」』#1

2024/05/27

source : ノンフィクション出版

genre : ライフ, 歴史, 社会, メディア

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それでも食い下がられ…

 ただ、先方はどうしても「伊達政宗」に触れたいらしく、「政宗が作った可能性は絶対無いのでしょうか?」と食い下がってきた。そうなれば、こちらとしては、もう言うことはない。そもそも僕は「伊達政宗」の専門家ではないし。「それはありえないですね」と返したところ、向こうは「他に政宗に詳しい研究者の方はご存じないでしょうか」と聞いてきた。要するに、「オマエじゃダメだから、もっと詳しいヤツを紹介しろ」というわけだ。それでも心の広い僕は、「政宗」の専門家数人の名前を教えてあげて、丁重に電話を切った。

※写真はイメージです ©写真:mapo/イメージマート

 ところが、数日後、その同じADさんから、また電話がきたのである。聞けば、僕が名前を出した研究者からは、いずれも「ずんだ餅は政宗が発明したものではない」と、にべもなく断言されてしまったという。そこで、困っているので、再度先生にお願いしたい、というのだ。

思わず言葉を失った

「いやいや、あなた、僕の話を聞いてました? ずんだ餅は政宗が作ったものじゃない、って説明しましたよね? なんで、その僕が『お願い』されなきゃいけないんですか?」

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 と、返したところ、向こうからは、世にも恐ろしい答えが返ってきた。

「ですから、とりあえずVTRで『ずんだ餅は伊達政宗が作った』とだけ先生にコメントしてもらえないでしょうか? 放送時には必ず画面内に『※諸説あります』とテロップをつけますから」

 言葉を失うとは、このことだ。

「え。ちょっと、待って。なにそれ。あなた、学者にわざと間違ったことをしゃべらせて、『※諸説あります』でごまかそうとしてるわけ? 今まで、そうやって番組作ってきたんですか? そんなことが通ると思ってるの?」

 と問い詰めたところ、向こうは「ですよね~」と言って、一方的に電話を切ってしまった。その後、この番組内で「伊達政宗とずんだ餅」の話題が採り上げられたのかどうか、定かではない。

もっと問題だと思うこと

 これは、僕が体験したテレビ取材のなかでは最低の部類の逸話であるが、これに近い経験は何度かある。おそらく最初に番組の結論ありきで企画を通して、それに適合する識者のコメントを集めてくるという手法で番組を作っているのだろう。ただ、もし僕がSNSなどで、その番組名を晒せば、かなり高い確率でその番組の偉い人が公式に謝罪しなければならなくなるだろうし、ヘタをすれば番組がふっ飛ぶぐらいの危うい問題だと思うのだが、先方の口ぶりからすると、そうした番組の作り方にほとんど疑問を抱いていない様子だった。思うに、あの世界の一部では日常的にそうしたことが行われているのではないだろうか。