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 実は、なぜそのように思ったかというと私は中学生のときにいじめに遭っていて、そのときに考えたことなんです。ある日突然、女性の先輩のグループに呼び出されて、暴力を振るわれました。いきなり暗い穴に突き落とされたような気持ちで、明日から学校に行ける気がしませんでした。自由な空気の小学校から一転、中学生になったら校則が厳しくて、その締め付けになんとか耐えて通っていたのに、誰かに憎まれて直接的に暴力を振るわれたら、もう無理だと。帰宅して思いつめていたら、仕事中の母からたまたま電話がかかってきたんです。こらえきれず電話口で泣いたら、母は職場からすっ飛んで帰ってきて、「どないしたん」って理由を訊かれたので、今日の出来事を説明しました。「あんたは何かしたんか?」と言うので、「私は何もしてない、そんな覚えも全くないし、先輩とはしゃべったこともない」って話したら、「分かった」と母は言いました。

写真・杉山秀樹(文藝春秋写真部)

いじめを受けた次の日

 母は私の話を聞いたその足で、私の担任の先生、いじめた中心人物に直接会いに行ったそうです。そして夜帰ってきて、「明日、学校にいきなさい」と私に言ったんです。「絶対に守ってあげるから、行きなさい。明日は何も起こらないから」ものすごくいやだったけれども、その言葉を信じて、翌日、登校しました。そしたら、本当に何も起こらなかった。

 私が何かされたら、命がけで守るからっていうことだったんだと思います。私はそのとき、母は私のことをおおげさでなく、命がけで守ろうとしているんだな、と感じた。親としてっていうんじゃなくて、人として本気で言ってるんだなって分かったから、その言葉を信じられたから、学校へ行けたんです。でなければ、行かなかったと思う。

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 先輩グループのいじめのターゲットにされたっていう情報は学校中を一気にかけ巡るんですね。廊下で、クラスの違う全然知らない同級生に、「中江さんが先輩に生意気を言ったって噂されているから気を付けた方がいいよ」と言われました。先輩とはしゃべったこともないのに。もう学校の人全員「敵」みたいな感じですよね(笑)。あと、私は「先輩後輩の関係」がいやだったからクラブに入らなかったんだけど、クラブに入っている子たちにとっては、先輩から睨まれた私と付き合えないんですよ、残念ながら。当時仲良くしていた運動部の同級生たちに迷惑をかけるからもう付き合えないなと思って、そのことも学校にはもう行けないと思いつめた理由でした。

 そんなわけで、翌日の登校はものすごくいやだったし怖かったけど、行ったら、あっけなく一日が過ぎていきました。なにごともなく無事に帰宅できて、「あれ? 昨日のことは一体何やったん?」という感じですよ。

 朝、教室に入ったら、最初ちょっと微妙な空気はあったけど、1限目2限目と時が過ぎていくとしゃべってもいいかなという雰囲気になって、昨日わたしに苦言を呈した子たちも、何も言ってきませんでした。そして、そのまま何事もなかったかのように学校から帰ってきて、翌日からまた学校へ行って……おかげで私は不登校にならずに済んだんです。

 母は件の先輩に、「こんど娘に手を出したら、私はただではおかない」って言ったらしいです(笑)。あのときは、「逆襲されたらどうしよう」と悪い方向に考えてしまいましたが、幸いにもそうならなかった。もうひとつ母はこう言ったんです。「あんたをいじめたあの子も心根は優しい子。私が話している間、ずっと膝の上のネコをなでてたよ」その言葉も学校へ行こうと思えた理由のひとつでした。

 そんな大変な思いもしたけど、私の場合は本が非常口になってくれた。子どもの頃から読んでいた絵本、それから、学校の図書室でめぐりあった本たちにどれだけ救われたか分かりません。

*通信制高校は、各学校によってシステムが違いますので、週1登校ではない学校もあります。単位数の扱いやスクーリング(登校)の日数等については各学校にお問合せください。(文春文庫編集部)

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