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ホラー映画の習作『HIGH-SCHOOL-TERROR』

――『HIGH-SCHOOL-TERROR』はストーリーがあって分かりやすいですね。

手塚 『HIGH-SCHOOL-TERROR』は、ホラー映画の習作を作ろうとした。シナリオと絵コンテがきちんとある。これは学校の教室の話だから、授業中にずっと教室を見ながら、どこにカメラを置いてどうしようかと、すごく考えて。撮影前に教室でカメラを持って1人でアングルとかを全部決めているんです。丁寧にカット割りを考えて計算の上でやったんですね。その前にスピルバーグやヒッチコックの映画ももう見ているので、その考え方を盛り込んでいくと、こういう形だったらできるんじゃないかと、本当に計算で作った映画です。放課後に2日間で撮って。小中さんにも出演してもらいました。

『HIGH-SCHOOL-TERROR』の絵コンテ(手塚眞監督提供)
『HIGH-SCHOOL-TERROR』の絵コンテとクレジットのメモ(手塚眞監督提供)
『HIGH-SCHOOL-TERROR』で小中監督が演じたお化け(提供:一般社団法人PFF)

―― 僕が演じたお化けの役って、ピンポン玉を2つに切って目にはめているだけなんだけど、それが非常に効果的で怖かったですね。

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手塚 一番計算したのは、どこで音を入れるかというタイミング。普通だったらお化けが出た瞬間に怖い音を入れるんですけど、ほんのちょっと遅らせたんですね。これは『ジョーズ』で覚えたんです。『ジョーズ』で一番怖いシーンは、船の底から死んだ漁師さんの顔がヌッと出てくるところで、あそこを分析したら、音が遅いんですね。

―― そうですか。

手塚 後で知ったんだけど。あそこでどのタイミングで音を入れるかって、編集と音のタイミングを何パターンも作って、プレビューでお客さんに見せて、一番反応のよかったのを選んだってスピルバーグの伝記で読みましたけど、やっぱり検証しているんですね。怖い顔が出た瞬間に音を入れないんですよ。一歩遅らせてガッと入れるんですね。画でドキッとさせて、ビックリした瞬間に音を入れると、相乗効果が出るんです。

―― リチャード・ドレイファスが驚いてボコボコッとなる時に鳴っているんですね。

手塚 そうなんです。これはブライアン・デ・パルマ監督の『キャリー』の最後に地面から手が出てくるところも同じなんです。『キャリー』も、手が出た瞬間には大きな音は入ってなくて、(手がエイミー・アーヴィングの手を)つかんだ瞬間からガーンと音楽を出すんです。下手な演出の映画は先に音を出しちゃう。そうすると、音でビックリするから、それは怖さじゃなくて、ただの条件反射の驚きなんですね。そうじゃなくて、視覚的に怖いと思った後に音がグッと入ると、これはダブルショックになるんです。そうすると悲鳴につながるんです。案の定、それでみんなワッとなった。だから、それは本当に計算をした感じですね。

 でも、逆に言うと計算通りの結果でしかない。特別新しさもなければ、そこで個性は出せないんだということに気づいた。だから、あんまりそっちには行かなくなりました。その後『お茶の子博士のホラーシアター』というテレビの番組でホラーをやるんだけど、同じことはやりたくなくなっていくんです。だから、ちょっとずつずらしていっちゃう。