桑田はこの楽曲を、ジャズ・シンガーのような正確さと、ロック・ヴォーカリストのエモーションと、ふたつを併せ持つスタイルで歌っている。メンバーもまさに演奏することで“歌って〞いた。情感豊かなストリングスも加わり、弦のアレンジは、島健が担当する。[見つめ合うと素直に]からの、実にドラマチックなサビが、ひときわ印象深い作品である。この部分を思いついた時のことを、桑田はよく覚えている。
長いあいだ曲を作っていれば、どうしても、「前にこれ、やったよな」みたいなことも多くなる。そのまま進めても、過去の自分の模倣になってしまう。そんな壁が、しょっちゅう立ちはだかるのだ。それでも粘り強く、やっていくしかない。そこを抜けると、これまでの記憶にない、新鮮な感覚と巡り合うこともある。実は「TSUNAMI」を作ったときも、そんな経験をしている。
「[見つめ合うと]の“合ぁ~うと~”のsus4(サスフォー)みたいなところは、出てきた瞬間、すごく新鮮に思えた」。しかし、自分が過去に、既に他の曲でやっていたことかもしれない。「だから、周りにいたスタッフ4人ぐらいに、“これ、前にあったっけ?”と訊いた。みんな、口を揃えて“無い”という」。そこで新曲の一部として、採用することにしたのだ。
なぜ「TSUNAMI」と名付けられたのか
この楽曲は、なぜ“TSUNAMI”と名付けられたのだろうか。大きく関わるのが、サーフィンだ。接待ゴルフや接待マージャンはあっても、接待サーフィンは存在しない。この趣味は特別だ。周囲の雑音を遮断し、一人になれる貴重な時間が、サーフボードの上にあったのだ。桑田はこのスポーツを愛した。
そんなある日、『TSUNAMI CALLING』というドキュメンタリー作品と出会う。サーファー達の姿を描いたものだが、この楽曲のタイトルは、実はここから来ている。プロのサーファーは、波を通じ、地球のヴァイブスと一体となり多幸感を得る。彼らは勇敢で、時には死を覚悟で、津波にだって立ち向かう。「そのパラドックスは凄い。ロマンチシズムを感じた」。やがて桑田は、歌のサビで歌われる、重要な表現へ行き着いた。[津波のような侘しさ]だ。ちなみに、まだタイトルが決まる前、当時のビクターのディレクター・松元が、この曲のマスターテープの入った箱に勝手に「TSUNAMI」と書き記していた、というエピソードもある。