私の棲息する事業家界隈でも、どこぞの会社の技術者として雇われているうちは生真面目で優秀な社員でも、ひとたび独立し、ベンチャーキャピタルから億円単位の投資が行われて手元に現金が来ると、途端にオフィスが煌びやかな内装になったり、高級外車を買おうとしたり、愛人を秘書に雇ったり、芸能人や女子アナと合コンを繰り返したりするようになります。権力や財産を握ると、いままで抑圧されてきた隠された欲望が表出して、本来の人間性を露呈してしまうものなのかもしれません。

 これはもう大企業でもベンチャーでも政治家でもあるのでしょうが、いわゆる「上に媚びへつらい、下に異様に厳しい人」っていうカテゴリーは絶対にあるんです。こういう人ほど「俺も若い頃苦労したのだから、お前もその苦労を味わえ」とか「厳しい現場を潜り抜けるほど人間は磨かれるんだ、俺のように」などの困難体験型アトラクションを強いる体育会系になっちゃうものなんですよね。

 

 斎藤さんもそうでしたし、自民党パワハラ四天王も皆さんそのような傾向があるかと思いますが、彼らは気に入ったごく少数の側近・取り巻きの言うことしか聞かなくなっていきます。もちろん、そういう茶坊主に優秀な人がいれば、そのパワハラボスも仕事はできるという評価に繋がっていくのでしょうが、なにぶんパワハラですから、まともな人ほど擦り切れて周辺から去っていきます。

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 どんなにパワハラボスの信任が篤かろうが、寵愛されていた優秀な人でもひとたび「やっていられない」となると、すんなりフッといなくなってしまうものなんですよ。

 もちろん「辞めないで」ってみんなで慰留するけど、一度心が折れちゃうとなかなかむつかしいのも現実でやんすね。身の回りで、パワハラボスの下で頑張っていた人が真の円満離脱・退社できているケースはとても少ないです。

パワハラをする人は、指摘されると逆ギレする

 私のような外側の立場の人間は、そういうパワハラ系権力者を見かけたら遠巻きにしてつかず離れず仲良くする行動を取ることも多いのです。立場は不安定だけど、筋の悪い要求をしてくるクライアントやワンマン経営者などからは、距離を置いて身を守ることができるのは利点とも言えるんですよ。

 ただ、組織に長年勤めていた人のところへどこかからパワハラボスがスライドしたり降りてきたりして就任してしまった場合はどうしようもありません。その組織、その仕事でずっと頑張ってきた人ほど、上にイカれたパワハラ野郎が来ると、逃げ場もなく精神を病むものなのです。

 その仕事にやりがいを感じ、この組織で真面目に勤め上げようと思う人ほど、話の分からないパワハラ野郎がボスになってしまうと消耗具合も激しくなります。こういう仕事ができて組織に忠誠を誓う人は、組織にとって宝のはずなんですけどね。

©AFLO

 実際、職場で自殺してしまう人たちは、企業であれお役所であれ学校法人のような閉鎖的な組織であれ、上司のプレッシャーと状況にもの凄く左右されるものです。鬱になってしまって離脱されるのはまだいいほうで、私のつたない人生経験においても両手ほどあった組織内の理由による自殺は、話を聞くたび切なく残念な思いになります。

 訃報を受け取るたび、死を選ぶほどだったら辞めればいいのにという気持ちと、確かにあの人の下で働くのは相当なストレスだったろうなあという推察のほか、あのとき顔色悪かったな、言葉遣いが普段と違ったな、相談してくれればよかったのに、という生き残った側の贖罪意識と、でも相談されても返り血を考えると自分が直接パワハラ上司に強くは言わない(言えない)な、という思考がぐるぐる巡ります。そして、出た結論は「いいやつほど、早く死ぬ」。

 ごく最近も、個人的に親しかった秘書官氏がパワハラ大臣の所作に悩んでいたので深夜酒を飲ませたら半泣きで相談されたことがありました。某省では若手エースの1人で嘱望もされてましたから、潰されては大変だと騒ぎになっていたんですよね。

 ただ、私ができるアドバイスも「それは先生に直訴しても無理だろうから、心ある同僚議員に時間を取ってもらって状況を全部説明し、心情的な理解をもらってから『秘書官はもう続けられない』と役人の皆さんに宣言してスイッチしてもらうしかないですね」しかありません。

 パワハラをする人は、パワハラをしているという自己認識がないうえに、何か起きても罪を感じることはなく、外部から「それはパワハラですよ」と指摘されると大変に逆ギレされるものなのです。