死刑囚にも裁判を受ける権利はある。法的に言えば、その裁判が執行を中断させる効力を持つことはないが、これらの裁判は事実上、原告死刑囚の執行にストップをかける要素になっていると見られる。
4件の裁判の内容(争点)は下記の通り。原告はこれらがすべて違憲または違法、国際人権規約に違反すると主張している。
①再審請求中の死刑囚に対する死刑執行
②死刑執行の当日告知(一審は原告の請求棄却、大阪高裁に控訴中)
③絞首刑という残虐な刑罰
④死刑執行情報文書の不開示
なかでも、とりわけ高い注目を集めている裁判が、死刑囚2名が原告となっている②の「当日告知訴訟」である。
東京拘置所から脱獄して、5カ月で死刑を執行された男
現在、死刑囚に対する執行の告知は、原則として執行当日の午前中に行われている。国会における法務省幹部の答弁によれば「告知から執行まで1~2時間」とのことで、死刑囚の死亡時刻(死刑囚の遺体を引き取る遺族に渡される死亡診断書に記載されている)から逆算すると、午前8時ごろが「告知」の時間帯になる計算だ。
死刑囚は、死刑確定から執行まで平均7年9カ月(2014~2021年)という長い期間を拘置所の独房で過ごすことになる。裁判の期間も含めれば短くとも10年、長いと20年以上になるケースも珍しくない。刑事訴訟法は「死刑確定日から6カ月以内に法相が執行指示すること」(475条2項)を定めているが、それは訓示規定と解釈されており、実際には現行法下で半年以内に執行されたケース(資料等で確認できる執行)は1件しかない。
史上最短で執行されたのは、1953年に起きた「栃木雑貨商一家殺害事件」の菊地正である。菊地は、一審、二審で死刑判決を受けていたが、上告中に東京拘置所(当時)から脱獄。母の暮らす実家に戻ったところを張り込んでいた刑事に確保された。
この前代未聞の不祥事を起こした菊地は、最高裁での上告棄却(死刑確定)からわずか5カ月後に執行された。これが唯一の「法令順守執行」だが、脱獄という異例の事態が起きなければ、これほどのスピード執行はなかっただろう。