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 日本における死刑をめぐっては現在、約2年2カ月にわたり執行がない「異例の空白期間」が続いている。直近の執行は2022年7月26日、「秋葉原無差別通り魔事件」の加藤智大死刑囚(享年39)までさかのぼり、昨年と今年は1人も執行がない。

秋葉原無差別通り魔事件(2008年)の加藤智大死刑囚

 これは「平成のモラトリアム」と呼ばれた3年4カ月(1989~1993年)の死刑執行ゼロ期間に迫る長さとなっている。なぜ、長期にわたり執行がないのか。

「法相失言、袴田事件、裏金問題の3点セットが原因と言われています」

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 そう打ち明けるのは、現場を取材する全国紙の司法記者だ。

2014年に東京拘置所から釈放された確定死刑囚の袴田巌さんと姉の秀子さん

 2022年11月、就任したばかりの葉梨康弘法相が「法相は死刑のはんこを押す。ニュースのトップになるのはそういうときだけという地味な役職だ」と発言。内外の批判を受けて岸田首相は直ちに葉梨氏を更迭した。これが長期にわたる執行の中断につながったとされる「失言」だ。

長い「空白の期間」が与える無言のプレッシャー

 そして今年9月26日にも再審無罪判決が予想される袴田事件。死刑囚ながら10年前に釈放された袴田巌さん(88歳)の無罪が確定すれば、歴史的な冤罪事件として大きく報道され、改めて司法の責任が問われることになる。世論を重視して動く法務省、検察庁が死刑執行を躊躇しているという説には説得力がある。

1966年に起きた「袴田事件」の事件現場

 また、今年弾けた裏金問題では東京地検特捜部と自民党の全面戦争になった。小泉龍司法相は、不祥事の震源地となった旧二階派の所属(後に派閥を離脱)で、法務大臣でありながら、自身が捜査対象になりうる立場にあった。この緊張関係のなかで、事務方が法相に死刑執行のサインを要請することは難しかったという指摘がある。

 もっとも、これらの問題がクリアされたと判断されたとき、死刑執行が再開されることは間違いない。長い「空白の期間」は、死刑囚に無言のプレッシャーを与え続けている。

 死刑執行の中断要因になりうる事案が多数発生した一方で、2020年以降、確定死刑囚やその弁護人らが原告となり、国を相手取った民事(国賠)訴訟が4件、大阪地裁(一部控訴中)に提起されている。