野生のコアラは絶滅危惧種
他方、オーストラリアの野生のコアラは、2019年から翌年にかけての大規模な森林火災により多くの個体が犠牲となった。火災の原因は地球温暖化による異常気象にあると考えられる。オーストラリア政府はこの事態を受け、自国版のレッドリストでコアラを危急種から絶滅危惧種へと引き上げた。
40年前のコアラ初来日と前後して1983年にはラッコが初来日し、さらにテレビなどを通じてエリマキトカゲが人気を集めるなど、世の中は珍獣ブームのさなかにあった。それもあって、コアラの導入に対しては、当時どこも来場者数が伸び悩んでいた動物園が集客の目玉にするため、莫大な費用をかけてまで進めているといった批判も少なからずあった。来日まもなくしてコアラがあいついで死んだときには、日本での飼育を疑問視する声も上がった。
しかし、各園では、コアラたちの嗜好に応じたユーカリの葉を日々提供し続けるなど努力を重ねながら、日本の環境に慣れさせてきた。だからこそ、コアラはここまで長く飼われ、増え続けてきたのだろう。種の保存への貢献はあきらかであり、元気なコアラの姿は私たちにこの動物への興味を抱かせてくれる。それはコアラが、人間の所業のために直面する危機について考えるきっかけにもなるはずだ。
■参考文献
・中川志郎『動物たちの昭和史Ⅱ』(太陽企画出版、1992年)、『動物と私の交響曲(シンフォニー)』(東京新聞出版局、1996年)、『生き物はすべてつながっている』(ザ・ブック、2013年)
・鹿島英佑『恋するコアラはなぜやせる?――コアラ飼育10年のエピソード』(風媒社、1994年)
・財団法人鹿児島市動物公園協会『ひらかわ』no.24~31(1984~92年)
・橋川央「日本のコアラ飼育事情」(天王寺動物園情報誌『なきごえ』vol.44-10、2008年)
・平川動物公園『すごいコアラ!―飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる不思議とカワイイのひみつ―』(新潮社、2024年)
このほか、『中日新聞』『朝日新聞』『毎日新聞』『読売新聞』などの各記事を参照しました。