ニューヨーク・タイムズ紙の記者で『トランプ王国』の著書があるティモシー・オブライエンは、公PBS共放送サービスの番組でこう語っている。
「トランプはそれまで長い間、冗談のネタとして扱われてきたが、『アプレンティス』に出演したために大逆転を果たした。真のキャリアを持った信用できるビジネスマンとしてアメリカ人の目に映るようになった。リアリティ番組のスターとなったトランプは、現実の政界でもスターになれるかもしれない、と考えるようになった」
トランプの政治顧問を務めるロジャー・ストーンは、同じ番組でこう語っている。
「いつも完璧な照明を当てられ、服装から髪型まできれいに整えられたトランプを見た視聴者は、16年の選挙での投票者になった。番組は、トランプが大統領になるための最大の武器となった。エリートの中には、たかがリアリティ番組じゃないか、と言う人もいるだろうが、テレビのニュース番組も、ほかの娯楽番組も、同じテレビ番組なのだから」
トランプ自身も15年、ワシントン・ポスト紙の取材にこう答えている。
「『アプレンティス』で得た尊敬、知名度、そしてお世辞はこれまでとは比較にならないものだった。まさに次元が違ったのだ。俺は今、アメリカを再び素晴らしい国にするために(大統領選に)立候補するが、知名度の高さがそれを助けているのは事実だ」
トランプは『アプレンティス』への出演を機に、エンターテイナーとしての腕と話術を磨いていく。
同番組の高視聴率の余勢を駆って、トランプは04年、『サタデー・ナイト・ライブ』にホストとして出演した。1週間の時事ネタをコントやミュージカル仕立てにして生放送する人気番組。この番組に出演しただけで、週明けのニュースとして扱われるほどの影響力を持つカリスマ番組だ。
ブルーのスーツと赤のネクタイ姿で現れたトランプは冒頭で、「こうして『サタデー・ナイト・ライブ』に出演できて、本当に光栄に思う。でも率直に言って、俺がいまここにいることで、番組が得ているメリットのほうが大きい。俺ほど重要な人物はいない。俺ほど優れた人物もいない。俺は高視聴率を生み出すマシーンだ」と大見得を切った。
翌05年には、エミー賞の授賞式で、麦わら帽子にオーバーオールを着て左手に干し草用のピッチフォークを持って、映画女優と一緒に、60年代に大ヒットしたテレビ番組『農園天国』のテーマ曲を歌い、聴衆から拍手喝采を浴びている。
こうしてトランプは、将来の大統領選出馬の可能性を探りながら、着実にテレビ映えする技術やノウハウを蓄えていった。
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