ミュージシャン、俳優として活躍する古舘佑太郎。古舘伊知郎を父に持つ彼が30歳を過ぎてなぜ突如旅に出ることになったのか、そしてそこで見たものは……。『カトマンズに飛ばされて 旅嫌いな僕のアジア10カ国激闘日記』より一部抜粋し、ガンジス川で沐浴した瞬間をご紹介する。(全2回の後編/前編を読む)
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いざ、ガンジスへ
早朝5時57分。6時ピッタリにセットしていた目覚まし時計が、今にも鳴り響こうと息を潜めていた。今日こそ沐浴を果たすという強い意志とこびりつく不安が、予定時刻よりも少し前に僕を叩き起こした。
「なんだ。先に起きたのか」
と不服そうな顔をしている時計のアラームを切った。薄闇の日本人宿。2段ベッドから降りて、同部屋の寝息を聴きながら、準備を始めた。
「出発の時間だな。よし、俺もついていくよ」
隣のベッドで目を覚ましたヤマモトさんは、そそくさと顔を洗いに洗面所へ向かった。支度を終えて先に玄関へ向かうと、一眼レフを首からぶら下げたミサちゃんがすでに待機していた。数分遅れて、あくびをしながらタクヤさんが、
「おはようございます」
と言って顔を出した。ヤマモトさん、ミサちゃん、タクヤさん。この3名を連れてガンジス川へと出発した。
川沿いを探索した。どこで沐浴しても構わない。経験者によると、「ここだ!」と思える場所に出会えたら、そこがその日の沐浴場となるらしい。1時間ほど上流から下流を行ったり来たりしても、「ここだ!」と思える場所は見つからなかった。むしろ、「やめておこうか」と足がすくむ場所ばかりだった。
最終的には、船着場の横に目星をつけた。理由は3人に申し訳なくなって、さすがにそろそろという気遣いによるものだった。運命的な感覚より、日本人的な配慮で決めたのである。もしも一人ぼっちだったら、何時間も探し回った挙げ句、諦めて宿に帰っていたかもしれない。そういう意味でも、やはり帯同者がいたことでやらざるを得ないという勇気をもらった。