「自然な演技」と「素の自分で演る」ことは違う

――今回主演した『レイブンズ』も、イギリスのマーク・ギル監督が日本の写真家・深瀬昌久の生涯を描く、海外との合作映画です。不自然なことやわざとらしいことをしない、浅野さんの“なにもしない”演技を堪能することができました。

浅野 自然な演技みたいなことをやっていると、よく勘違いされるんです。たとえば他の俳優さんが同じことをしようとしたとき、本当にただ自分のままやろうとする。でも僕はパントマイムをしてるんですね。

 今回の深瀬さんみたいに酒に溺れていく役なら、酒を飲んでいる人をとにかく研究して、その表情や身振りを記憶しておく。勘違いした人は、素の自分の癖で動こうとするけど、そうではないんです。

ADVERTISEMENT

――浅野さんの自然な演技は、役柄への深い理解に裏打ちされたものですよね。

浅野 そうですね。ましてや30代のころ、山田洋次監督の演出を受けたりして、自分の苦手を克服するための時期を経たので、それが融合して自分の中ではパーフェクトになったような気がします。

©Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, Katsize Films, The Y House Films

『SHOGUN 将軍』ではあらゆる演技アプローチを使った

――30代のころというのは、不自然なことやわざとらしいことにも、あえて取り組んだ時期です。

浅野 メソッドアクティング(役柄の経験や状況を疑似的に追体験する手法)の本にも目を通したんですけど、時代ごとにいろいろな演技のアプローチがあるんですよね。でも自分はそれを全部通ってきたから、すべて理解できる。2025年のいまは、そのすべてが必要なんですよね。『SHOGUN 将軍』のときなんて全部使いましたから。

 そもそもメソッド的なアプローチというのは、家でやっておくことだと思うんです。酒飲みの役だからといって、現場でも本当に酒を飲んで叫んだり、床に寝っ転がったりしたら、ただ迷惑なだけですから。そういうことを家で記憶して、現場ですぐ出せるようにしておかないといけないんですよね。

――今回演じた深瀬昌久は、一時脚光を浴びたものの、その後酒に溺れていきます。その内面をどう理解していましたか?

浅野 若いころにがむしゃらに欲していたものが、自分のなかであまり意味をなさなくなっていくことって、たぶん僕にもあったと思うんです。深瀬さんは写真を追求していたけど、それが前ほど写真に喜びを感じられないようになる。そうなったときに、世の中に向けて写真を撮る必要がなくなったんじゃないかって。ただ自分と向き合って、写真を撮るようになっていった気がするんです。