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「紅いシリコンバレー」深センで目撃したロボット産業の恐るべき進化

日本のお家芸で中国企業の後塵を拝する日も近い

2018/06/16
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「シリコンバレーの3カ月は深センの2週間」

 特に「白牌企業」や「山塞企業」の発展は、世界であまり類を見ないような部品産業を誕生させた。それは、「公板」や「公模」の発展だ。「公板」とは文字通り、パブリックの基板という意味で一般流通している基板モジュールのことだ。新製品開発に当たって独自の基板を開発しなくても外部の「公板企業」から調達すればよい。同様に「公模」とは誰でも購入可能な金型メーカーが保有する成型部品のことを指す。

 深センのしたたかな企業は、こうした「公板」や「公模」を使って素早いものづくり能力を身に付けた。意思決定や実行の速さという点が深センの強み、魅力と言えるだろう。産業界の一部からは「シリコンバレーの3カ月は深センの2週間」と言われるほど動きが素早い。実際、シリコンバレーで生まれたアイデアの具現化を深センが担っているケースもあるようだ。

 深センでベンチャーとして生まれ、世界的な企業に成長を遂げた企業も多い。たとえば世界的な通信企業に成長した華為(ファーウェイ)技術やドローンでグローバル展開するDJI、メッセージアプリの「微信(We Chat)ブランド」で知られるテンセント、電気自動車(EV)で先駆けたBYDなどだ。大企業に成長した元ベンチャーが、新たな産業を育てる仕組みもできていて、人やお金のつながりが生態系のような形になっている。

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1995年に設立され、いまや巨大企業となったBYDの本社前 撮影:筆者

ロボット産業強化の背景に人件費の高騰と「農民工」の不足

 この深センや東莞で新たに台頭しているのがロボット産業だ。これには中国の国家戦略も大きく関与している。2015年から始まった「中国版インダストリー4.0」と呼ばれる産業政策「中国製造2025」において重点強化する産業の一つだからだ。「製造業強国路線」の主軸は、EVと並んでロボットが果たすと見られる。

 中国における労働者1万人当たりの産業ロボット普及台数は69台。これを150台にまで高めていくために莫大な補助金が投入されている。参考までに米国の普及台数は189台、日本は305台。産業構造の転換を推進するために従来の「来料加工」などへの補助金制度は廃止されたという。

 中国がロボット産業を強化する背景には、人件費の高騰と、地方から都市部に出稼ぎに来る「農民工」の不足がある。このため、企業は製造ラインの自動化を急速に進めているが、このニーズに対応しなければならなくなっている。

 スマホ向けなどに電子部品を生産する日本メーカーのサトーセン(本社・大阪市)の下請けで、深センに工場を持つ斯特辰電子の金善龍総経理が語る。

「20年前にこの地域における電子機器やプラスチック製造などの工員の月給は600元(約1万円)程度が相場だったのが、今は残業代を入れて5000元(約8万5000円)。近いうちに1万元になるでしょう。人件費が高くなったため、もちろん企業ごとに差はありますが、労働集約型企業が深センや東莞で工場を構えるメリットは、少なくなっています」