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「転んでもいいよ。また立ち上がればいい」

 屈辱をエネルギーにして笠原は前に進んだ。「ただ、4年秋は力が入りすぎて駄目でした」と苦笑い。しかし、中日の評価は変わらず、ドラフト4位で指名。エリート達と同じスタートラインに立った。

 入寮日、笠原は大学の監督からもらった色紙を持参した。そこには「自信」と書かれている。「僕にとっては最も大切な言葉です」。さらに去年オフに新調したグラブにも「自信」の二文字を刻んだ。

「自信」という大切な言葉が刻まれたグローブ ©若狭敬一

 2年目の今シーズン、笠原は開幕ローテーションに入った。

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「去年の経験が大きかったです。初登板で菊池(涼介・広島)さんから三振を奪えたことも初勝利も。プロの打者を抑えた事実が何よりの自信になりました」

 しかし、群馬で大きく躓く。4月25日。巨人・中日5回戦。1アウトも取れずに6失点。さらに5月13日。東京ドーム。巨人・中日8回戦。1回2/3を5失点。翌日、登録抹消になった。

「抑え方が分からなくなっていました」

 2軍降格後、初登板となった5月20日のオリックス戦。笠原は先頭打者ホームランを浴びるなど2回終了時点で6安打4失点。復調の兆しは見えない。

 そんな笠原をベンチで一喝した男がいる。小笠原孝コーチだ。

「顔から全く自信を感じない。これではチームの士気に関わる。打たれてもいい。四球を出してもいい。3回から自信満々で投げてみないか」

 目が覚めた。

「一番大切にしていたものを忘れていました。その言葉を境にいくらピンチでも、相手が誰でも、打てるものなら打ってみろという気持ちで投げています」。

 それを体現した試合がある。6月15日。メットライフドーム。西武・中日1回戦。相手は脅威の山賊打線。そして、菊池雄星だった。

 背番号47は立ち上がりに四球を連発するものの、動じない。臆することなく腕を振り、7回2安打無失点で敵地を静まり返らせた。

 もう、失わない。

「僕、まだ今年ナゴヤドームで投げていないんです。登場曲も変えたんですけど、まだ1回もかかってなくて」と笑う。

 選んだ曲はdoaの「英雄」。歌詞にはこう書かれている。

「転んでもいいよ。また立ち上がればいい。ただ、それだけできれば、英雄さ」

 今日も新聞には地方予選の結果が載っている。夏を終えた球児たち。その中にはきっと第2の笠原がいるだろう。

 転んでもいい。立ち上がればいい。そして、自信という武器を手にして欲しい。そうすれば、名もなき男は英雄になり得るのだから。

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