医師は運転技術に必要な能力を診断できない
さらに、認知症であっても、実際に運転ができる高齢者がいるため、「診断する医師にも慎重な対応が求められている」と言います。
「医師は認知症の診断はできても運転技術に必要な能力までを診断できるわけではありません。医師は、認知機能検査受験の有無に関わらず、認知症と診断した場合、任意で公安委員会に、その旨を届け出ることができます。しかし、この届出をすることにより医師と患者の関係が悪化、ひいては治療に支障が出る可能性があるのです」
日本では、警察庁と医療関係者などの有識者による「高齢運転者事故防止対策に関する有識者会議」を設置。認知症への対応、視野障害への対応、その他の加齢に伴う身体機能の低下への対応を柱に、それに関連するさまざまなデータを収集、分析し、高齢者の運転に関する協議が重ねられています。
高齢者にとって運転免許が大切な理由
「高齢者にとって運転免許は、“生きてきた証”、つまり、社会と繋がる接点でもあります。一人前の人間としての証明であり、他の人の役に立てる、家族の一員として認められるということは、誇りや生きがいとも言えるでしょう。また、運転に限ったことではありませんが、人の役に立つ喜びは、老化予防や長寿の秘訣でもあります。また、特に地方で暮らす高齢者にとっては、移動手段の確保、すなわち“生きる術”という意味でも、免許の持つ意味は非常に大きいのです」
高齢者だから、認知症だから一律に免許を取り上げるというのではなく、運転能力に応じた、きめ細やかな対応が求められています。また、運転免許を返上した後に移動手段をどのように担保するのか、具体的で実効性のある施策も必要です。諸外国では、地域限定、時間限定免許のあり方についても調査が進められているのですが、高齢者が快適に暮らすことができ、かつ安全に運転できる制度の整備が待たれます。