哲学なき農政が食を滅ぼす
「米は足りていると申し上げてきましたが、誤っていました」
今年の8月8日、永田町の自民党本部で農林水産省の渡邊毅事務次官が深々と頭を下げて謝罪した。
それをテレビで見たある農家は「誰に謝罪してるんだよ」と吐き捨てた。農水省が向いているのは国民や流通業者ではなく、自民党だというのだ。
その1年前、店頭に米が品薄になっていることを問われ、当時の坂本哲志農水大臣は「9月になれば品薄は解消する」として、備蓄米の放出を否定したが、それが間違っていたことをようやく農水省が認めたのである。ただ、次官からは、米がなぜ足りなかったのか、その説明はなかった。あるいは、公表できなかったのかもしれない。だが、こんな重大なことを間違えるにはそれなりの理由があったはずである。
冷夏でもなく大災害があったわけでもないのに、店頭から米が消えて「米騒動」に発展するなどあり得ない事態だ。考えられるのは、日本の食料システムのどこかが壊れていたからである。そんなことを考えて、私なりに調べたのが坂本大臣会見後の昨年10月だった。このとき、大手の老舗米問屋の山中和平さん(仮名)と十数人の農家に協力を仰いだ。なぜ大手米問屋かというと、農家から集荷した米は店頭にも卸すが、卸し先は主に外食産業や病院が中心で、ほとんどが年契約である。もしも米を提供できなければ閉鎖する店が出るし、米問屋自身に倒産の可能性がある。だから彼らはいつも情報収集に必死だ。このとき山中さんはこんな説明をしてくれた。
「農水省は、2024年産米は増産の見通しと発表しましたが、我々の調査では約45万トン減でした。不安になった業者が量の確保に動いたのですが、そこへ8月に『巨大地震注意』が発表されて、あっという間に米が消えました。2023年産米も不作でしたから、早食いといって、通常なら10月頃まで残っているはずの前年米を食べ尽くして新米を出したことで米価はさらに高騰しました。農水省が数字を間違っていたとしか思えません」
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