新連載スタート 人気飲食店チェーンの創業者一代記
落札の瞬間、豊洲市場ではどよめきと拍手が沸き起こった。2019年1月5日、築地から移転後初めてのマグロの初競り。青森県大間産のクロマグロの落札価格は、なんと3億3360万円だった。13年の最高値(1億5540万円)の2倍を上回る、いまなお破られていない初競りでの最高値だ。この“一番マグロ”をすし一貫分に換算すると2万円以上になるが、落札した「喜代村」社長の木村清(73)は、自らのすしチェーン「すしざんまい」の全店で大とろ398円、中とろ298円などの通常価格(当時)で提供した。
“一番マグロ”とは初競りにおいてキロ単価がもっとも高いマグロを指す。単価に重量を掛けた一本当たりの落札価格ではない。もともと木村は「美味しいマグロをお客さんに出したい」という思いが強く、高額落札自体にこだわりはなかったという。

「東日本大震災が起きた直後は、縁起物の初競りマグロで活力を失ってしまったこの国を元気づけたいという気持ちが強くありました。いまでもよく覚えているのは、震災の翌年(2012年)の初競り。原発事故による放射性物質の問題で福島産を中心に東北地方の魚介類はほとんど姿を消しました。本当に悲しい光景だった」
最初に初競りですしざんまいが話題になったのは2004年。木村はマグロ一本を392万円で落札。それから2007年まで4年連続で最高級の初物マグロを落札している。
「それまでは、最高級のマグロは高級店が落札していました。しかし、私は縁起物である初物マグロこそ、われわれのお店に来てくださるような、一般のお客さんに食べてほしいと考えたのです。だから落札にはこだわりました。
しかし2008年から『香港の寿司王』と呼ばれるすしチェーンが参戦し、4年連続で落札しました。
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