日本人が魚を食べなくなったと言われています。たしかに国内では人口が減少に転じ、魚の消費量も減少傾向ですが、世界に目を向けると、水産物の消費は拡大の一途です。水産分野では「世界で日本が一人負けしている」という人もいますが、私は「日本の漁業は決して衰退産業ではない」と思っています。
日本の漁業は、豊かな海に囲まれた中で生まれた産業であり、魚を中心とした「魚食」「和食」という文化を発展させてきました。我々漁業者は、この豊かな海にある水産資源を守りながら、持続可能な漁業を続けてきました。水産物を獲る漁業者のいない国に魚食文化は存在しないし、存続しえません。今後は、この資源をより有効に活用して、世界の人が日本の水産物を従来以上に求めるようにすることが、日本の漁業がとるべき道だと考えます。
漁業振興の成功例と言われるノルウェーでは、水産物を輸出商品にしようと国を挙げて取り組んできた一方、国内では魚の消費があまり活発ではありません。
一方、日本には「魚食文化」があり、国民は魚をよく食べてきました。魚料理が主役の和食は、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されたように世界が認めており、世界の人たちが日本に来て、魚を食べてもらえるチャンスは十分にあります。
魚食文化は、全国各地の漁港を基点にその地域に根付いており、「関サバ」「大間のマグロ」「銚子のサンマ・イワシ」など、地名を盛り込んだブランド魚がたくさんある。これらの水産物を食べるために外国人が日本にやって来て、東京や京都だけでなく、「この寿司ネタはどこの産地のものだろう」と、その地方に赴いてくれるでしょう。
多くの人が漁村に行くことで、その地域の活性化にもつながりますし、観光だけでなく、外国人が魚の価値を見出すことで、日本人も魚食文化の素晴らしさを改めて認識することになって、魚の消費も増えていくのではないでしょうか。
狙われる日本近海の魚
今、世界の国が日本の漁業資源を狙っており、日本近海にやってきて漁業を行っています。このことからも分かる通り、日本の海は世界的に見ても貴重な財産だといえるでしょう。ただ食料安保で語られるのは主に農業で、「日本には魚がある」ということが十分に国民に認識されていないと感じます。漁業の重要性を安全保障の面からもしっかりPRしていきたいです。
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source : 文藝春秋 2023年2月号