全国で「餃子チェーン」と聞けば「王将」が想起されることが多いのかもしれない。だが埼玉県は違う。この地で愛されているのは川越市に本社のある「ぎょうざの満洲」だ。創業は1964年。県内の店舗数は王将が36に対し、満洲が52(25年11月時点)。地元で愛され、“埼玉県民のソウルフード”とメディアで紹介されることもある。
焼餃子1皿(6個)350円、ラーメン1杯400円から。誰もが求めやすい価格で大衆的な中華料理を提供し、最近では玄米を使ったチャーハンや自社農場産の野菜メニューなど健康志向も打ち出す。週末には店内のあちこちで三世代家族が舌鼓を打つ。驚くほど幅広い世代に愛されているのだ。
創業者の金子梅吉(89)は98年に社長職を退き、以降、実娘の池野谷ひろみ(63)が社長を務める。

「ひろみの考えることは100%、私と同じなんです」
取材の冒頭、梅吉は満面の笑みを浮かべてこう言った。
創業から61年、その道のりは決して平坦ではなかった。店舗数の少なかった80年代には、梅吉の経営方針に不満を募らせた職人ほぼ全員が退職し、90年代には餃子に欠かせない野菜の高騰で屋台骨が傾きかけたこともあった。
だが、そのたびにこの親子は驚くようなアイディアを繰り出し、会社を強く、大きくしていった。ぎょうざの満洲の歴史は、梅吉とひろみの「改善に次ぐ改善」の物語である。
初めての餃子は吉祥寺の露店
赤城山の神と日光男体山の神が激しい戦いを繰り広げたという神話で知られる老神温泉。その名湯からほど近い、群馬県の利根郡(現在の沼田市利根町)に1936(昭和11)年、金子梅吉は生まれた。
炭焼き職人を父に持つ6人きょうだいの末っ子。だが梅吉が幼いうちに、父は炭焼き小屋の崩落事故で、母は病気で他界した。父も母もいないきょうだいは借りた土地で稲を育てたが、米は貴重な現金収入源。そうそう自分たちの口には入らない。
「よく食べたのはすいとんと雑穀、ヒエやアワに少しの米でした」
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