直径5センチのカプセルに入ったガチャガチャに魅了されて、30年。日本ガチャガチャ協会を立ち上げ、その魅力を発信しています。
ガチャガチャの商品開発に携わるようになったきっかけは、1994年に玩具メーカーのユージン(現・タカラトミーアーツ)に中途入社したことです。当時、ガチャガチャの市場規模は144億円ほど。現在の10分の1ほどに過ぎませんでした。買うのはもっぱら小学生以下の子ども。私はガチャガチャの企画開発を担当する3人だけの部署で、日夜子どもが喜ぶ商品のアイデアを出すために頭を捻っていました。

ところが、ちっぽけなガチャガチャ業界に激震が走ります。日本の出生率が1.50を切り、少子化の進行がはっきりしたからです。子どもが減れば玩具の需要も減ります。このままでは業界が先細りになる、という危機感の下、大人向けのガチャガチャ作りに力を入れ始めました。当時29歳だった私は、ならば自分が好きなものを作ろうと、オタク男性に向け、スペクトルマンやタイガーマスクなどを商品化したところ、当時10万個売れればヒットと言われる業界で、30万個が売れました。
こうして2000年代には、ガチャガチャのラインナップに大人向け商品が定着します。大人向けで強いのは、やはり漫画やアニメのキャラクターです。しかし、キャラクターの商品化には権利を取得する資本力や商品を売り切る販売力が必要です。市場の8割近くを占める業界大手のバンダイとタカラトミーアーツ以外のメーカーが手を出すのはなかなか難しい。現在50社を超える中小のメーカーは、アイデア勝負で大手に挑んできました。とはいえ、ひと月に500~700種の商品が発売されるので、売れないものは瞬く間に市場から消える厳しい世界で、生き残るヒット作は一握りです。
そんな切磋琢磨から生まれたのが、2012年に奇譚クラブが発売した「コップのフチ子」です。OL風の女性がコップのフチに腰をかけたり、ぶら下がったりする5センチのフィギュアです。その後も「おにぎりん具」や「うちの子のけだまだま」など、続々とヒット作が生まれました。最近では、「赤の他人の証明写真」が累計25万個のヒットとなりました。そうした商品はSNSでシェアしたくなるものが多く、20~30代の大人女子を中心に人気となりました。
そして2020年に始まったコロナ禍が、ガチャガチャに第2の画期をもたらしました。洋服店などのテナントが次々と商業施設から撤退し、その空いたスペースにたくさんのマシンを設置する店舗が増え、販路が拡大したからです。空きテナントに導入された理由は、ガチャガチャの販売の仕組みにあります。ガチャガチャ業界はメーカー、代理店、販売店の3者から成り立っています。ガチャガチャマシンは「オペレーター(代理店)」が所有し、設置・運営しています。オペレーターはメーカーから商品を仕入れ、マシンに商品を補充、メンテナンスをし、売上の集金を行います。設置先の店舗には、設置料として一定の金額を支払っています。そのため販売店には店員もほとんど要らず、在庫リスクもなく、マシンは電気代もかからないため、ガチャガチャ販売店は空きテナントで非常に始めやすい商売だったのです。2025年現在、販売店は日本全国に8万店舗あり、マシンは約80万台に上ります。市場規模は2024年度に1400億円に達しました。

売り場を観察すると、最近は親子で楽しむお客さんが多いことに気づきました。子どもだけでなく大人にも買ってもらおうと積み重ねてきた創意工夫によって、今やガチャガチャが世代を超えたコミュニケーションツールになっているのを見ると、感慨深いものがあります。
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