国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。
【い】『岩波国語辞典』のスタンスは変わるのか?
『岩波国語辞典』第8版が、この11月下旬に刊行。名高い辞書の10年ぶりの改訂版です。もっとも、私がこの原稿を書いている時点では、刊行まであと何日かあります。現物を見ないまま執筆するのは問題ありますが、ワクワクする気持ちをそのまま記します。
何がワクワクって、『岩波』の編者に代替わりがあり、3人のことば大好き研究者が(旧版よりも)主要な役割を担うことになったからです。『岩波』のスタンスが少し変わるかもしれません。
『岩波』の旧版、第7版は、戦後を代表する日本語研究者、水谷静夫が中心となって編纂されました(刊行後に水谷は死去)。水谷の考えも反映して、『岩波』は〈過去100年の(一時的流行ではない)言葉の群れ〉に手厚い、伝統的な日本語を大切にする辞書の性格を持っていました。明治〜昭和の近代文学を読むとき、『岩波』は役に立ちます。
その一方で、現代語に冷たい感じは否めませんでした。広い世代に一般的に使われることばの意味について〈……の意に使うのは、全くの誤用〉などと断罪する表現もありました。「誤用」を明示してくれる辞書はありがたいとも言えますが、誤用かどうかの基準は、結局、恣意的とならざるをえません。『岩波』の誤用に関する説明は、水谷の好みがかなり入っていると、私は推測しています。
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source : 文藝春秋 2020年1月号