
〇企画趣旨
近年、企業経営において「共創(コ・クリエーション)」は単なるキーワードを超え、持続的成長と価値創造の中核的戦略として急速に重要性を増しています。市場の変化が加速し、消費者ニーズが多様化する中で、従来の一方向的な価値提供モデルから、AIをはじめとする先端テクノロジー、ステークホルダー、さらには社内外の多様な人材と連携しながら価値を共に生み出す「共創型経営」へのシフトが求められています。
なかでも、企業の未来を切り拓く鍵として、新規事業の創出がこれまで以上に注目されています。変化が常態化する時代においては、既存事業の延長線上に成長を見出すことが難しくなっており、イノベーションの源泉として新たなビジネスモデルやマーケットを開拓することが不可欠です。こうした新規事業は、単独ではなく、むしろ共創によってこそ実現のスピードと質を高めることが可能です。異業種との連携や、スタートアップとの協業、さらには顧客や地域社会との共創により、これまでになかった視点やアイデアが持ち込まれ、実行力と拡張性のある事業創出へとつながります。
「AIとの共創」は、業務効率化や意思決定の高度化にとどまらず、まさに新規事業そのものの発想と構想に革新をもたらします。革新的な製品・サービスの創出、顧客体験のパーソナライズ、社会課題への解決策の提案など、多岐にわたるインパクトを企業にもたらします。また、「ステークホルダーとの共創」では、顧客や取引先、地域社会、行政など幅広いパートナーと価値を共に創り上げる取り組みが、社会的信頼と競争力の両立を可能にします。
さらに、サイロ化しがちな組織を超えて知見とデータを共有し、柔軟かつ迅速な意思決定を促す「部門間の共創」も、社内起点でのイノベーション創出において欠かせない要素です。組織全体の一体感を高め、既存の枠にとらわれない事業創発を進めるには、制度や文化の変革を伴う内面的な取り組みも重要です。
本カンファレンスでは、こうした「共創の経営」が拓く未来の可能性、そしてそれによって生まれる新たな事業機会について、多様な視点から考察を行います。AI活用の最新事例、社内外パートナーとの連携による挑戦的な取り組み、部門横断的な協業の実践例などを通じて、参加者が自社における新たな共創と事業創出のヒントを持ち帰れる場を提供した。
■基調講演
領域を越えた共創と新価値創造・新規事業創出
~ 無ければ創る - サイバーダインの挑戦 ~

筑波大学 教授/CYBERDYNE㈱ 代表取締役社長・CEO
内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) プログラムディレクター
山海 嘉之氏
1987年筑波大学大学院修了。工学博士。人・ロボット・情報系が融合複合した新学術領域【サイバニクス】を創成し、身体機能を改善・補助・拡張・再生する世界初のサイボーグ型治療ロボット「HAL®」を開発。2004年にサイバニクスを駆使して社会課題を解決する未来開拓型企業「CYBERDYNE(サイバーダイン)」を設立し、2014年東証マザーズ上場。世界初のロボット治療機器「医療用HAL」を上市するなど、イノベーションを起こしながら世界規模で事業を展開している。文科省GCOE拠点リーダー、内閣府FIRST中心研究者、内閣府ImPACTプログラムマネージャーなどを歴任。
私と東証マザーズ上場のサイバーダインは、新産業創出に向けた未来志向の産学連携に広く取り組んでいる。キーワードは「共創」「人間特性」。技術的観点、社会的観点、経済的観点から人類の未来を見据えたミッションや未来ビジョンを描き、これを実現するためにバックキャストさせながら必要となるピースを明確化し、無ければそのピースを創り出し、未来社会の実現を目指す。
科学技術・イノベーション政策として、人や社会のための産業変革・社会変革を推進⇒サイバニクス産業領域の様々な技術の国際標準化を推進する。サイバニクスとは「人・AIロボット・情報系の融合複合新領域」だ。
人類はテクノロジーと共生する種族だ。「人」+「サイバー・フィジカル空間」を融合する「サイバニクス空間」を私たちと内閣府は“Society 5.0”と名付けた。AIや人工脳といったテクノロジーを新たなパートナーとしたサイバニクス空間は、確実に来る少子超高齢化社会における医療・介護・重介護問題への対応に向けた挑戦の空間だ。人とテクノロジーが相互に支援し合う「テクノ・ピアサポート社会」の実現に向けて、新たな進化の道を探る。
今は第5次産業革命の萌芽期で、バイオ・医療系テクノロジーとAI・ロボット・情報系テクノロジーの融合=サイバニクスの黎明期。それを駆使することで、多様な人々の自立度を高め、健康寿命の延伸を実現していく。新たな治療法・事業領域を創り出し、異分野連携・融合で複合課題を解決していく。冒頭で述べたように「無ければ作る!」。社会の複合課題の解決へ向けて、新価値創造・新事業創出を実現していくのだ。

すでに様々なサイバニクス技術が開発・実用化され、医療健康イノベーション、ライフイノベーションなど柔軟な展開が可能だ。例えば、人とテクノロジーを融合し装着するだけで人をサイボーグ化する技術「世界初の装着型サイボーグHAL」も実現した。サイバーダインと連携し、サイバニクス領域の基礎研究・臨床研究・社会実装研究開発の一体的推進を行っている。
「ルールが無ければルールを創る」ことも行い、世界初の生活支援ロボットの国際認証(ISO/DIS)も取得した。共に開拓に挑戦してくれる官僚・補佐官等も仲間となって、従来の法律をIT/AIテック系と再生医療の展開にも有効な新たな法律へと変更することも達成した(2014年、薬事法⇒薬機法)。
医療ロボット(機能回復ロボット)の国際規格が日本でも2019年に発行された。世界では、現時点で医療用HALのみが治療として医療保険適用の対象となっている。サイバニクス治療=HALと新薬(例・難病用の核酸医薬品スピンラザ)との比較および相乗効果も判明し、同様に他の最新治療薬とHALの併用による相乗効果も期待できるようになっている。薬剤領域の事業者との共創で、新価値創造・新事業創出を実現していくのだ。
HAL腰タイプは作業支援/介護支援/自立支援に活用されている。介護される側の残存機能を高めるための自立支援用腰部装着型デバイスとして使われており、HAL介護予防プログラムにより高齢者の生活機能が大きく改善した調査結果もある。自治体・介護業界、(別途進む)スポーツ業界との共創だ。
マスター・リモート型ロボットでは、マスターが人の指などの動作情報を取得する。医療健康領域では、治療・管理・評価のために患者の脳神経・筋系、生理系、活動計の情報を日常的にセンシングする技術が求められる。そしてデータは集積・解析・AI処理する必要がある。今後は非接触での心電位計測や、脳波を髪の毛を介して非接触で計測するなど、サイバニックインタフェイスは高度化が進むだろう。
胸に貼り付ける新開発の多機能小型バイタルセンサー「Cyvis(サイビス)」が既に実用化され、クラウドとAIを介して病院とバイタル情報をデータ連携することで、早期発見や発症後の管理に役立っている。身体の活動情報が記録され、血栓形成に至る初期段階での対応もできるので有用なデバイスだ。
LED光源方式の光音響イメージングシステム「Acoustic X」は、血管を見る・診る世界初の新医療技術。X線なし、造影剤なし・非侵襲・リアルタイムで診療室で簡単に再生医療分野、糖尿病足病変分野を確認・検査することができる。サイバーダインが国際特許を持ち、光学領域と超音波とAI画像処理分野という異分野との共創で、新価値創造・新事業創出を実現していく。
サイバニック・AIメディカルパーソナルモビリティの開発・事業化も行っている。人とロボットの共生社会に求められる「自由な移動」を支える基盤技術「C-Gatenet(シーゲートネット)」はマルチベンダー型ロボット-環境設備連動システム。他社ロボットも自由に活用し業界作りを行っていく。
この他、諸外国政府や事業グループとの共創、また、装着型サイボーグ領域と認知症領域、心理領域と数理光学領域との共創、再生医療・薬との新たな医療技術開発の推進も行っている。再生医療・バイオ系業界とAIロボット業界との共創や人材派遣業にロボット派遣業を加える協業シナリオの提案や、様々なファンドの準備もしている。こうした新たな共創による新価値創造・新事業創出への挑戦により、「サイバニクス医療健康イノベーション」が実現されていく。
■課題解決講演(1)
共創×新規事業×AIに関して

株式会社ゼロワンブースター
代表取締役
合田 ジョージ氏
MBA、理工学修士。東芝の重電系研究所・設計を経て、同社でSwedenの家電大手との国際アライアンス、中国やタイなどでのオフショア製造によるデザイン白物家電の商品企画を担当。村田製作所にて、北米向け技術営業、米国半導体ベンダーとの国際アライアンス、Motorolaの全世界通信デバイス技術営業に携わり、その後、同社の通信分野のコーポレートマーケティングにて全社戦略策定を実施。スマートフォン広告のIT StartupであるNobot社に参画、Marketing Directorとして主に海外展開、イベント、マーケティングを指揮、同社のKDDIグループによるバイアウト後には、M&Aの調整を行い、海外戦略部部長としてKDDIグループ子会社の海外展開計画を策定。現在は01Boosterにてコーポレートアクセラレーター・事業創造アクセラレータを運用すると共にアジアを中心とした国際的な事業創造プラットフォームとエコシステム構築を目指している。
経験値だけでは足りない。学術論文だけだとリアリティに課題がありそう。よって、掛け合わせれば真実に一歩でも近づくことができると私たちは考える。
◎AI活用を含めたイノベーションの実践
企業において実際に行うことと教育は一致している必要がある。教育≒事業開発。「そもそも大きな事業を狙う」を企業文化にしなければならない。
Deep Techではさらに、市場戦略は硬直化して経路依存する。技術戦略は外部要因で柔軟に変化する。「やりたいこと」に偏ると問題がおきる。事業創造のスマイルカーブにおいて、実は最も難しいのは(事業)テーマ設定の部分だ。成功例はコロナワクチンで名を馳せたモデルナ社。

テーマ設定の思考プロセスは以下。
大きな事業の感覚を着ける⇒強み・自分・会社を知る⇒参入市場を知る・徹底的競合調査⇒戦略的模倣⇒事業仮説・事業テーマ策定
生成AIを活用した例は以下。
過去数年分の統合報告書・有価証券報告書・四季報・IRAQ資料等⇒NotebookLM※⇒SWOT/VRIN/VRIOその他の一般的な分析を行う×代表的な競合や代表的な起業も入れてみる⇒状況を理解する
※NotebookLM=Googleが提供するAI搭載のリサーチアシスタントツール
生成AIは広さはある(材料は並べられる)が、深さ方向や個別情報、リアリティに弱い。答えの精度は上げられても答えをくれるものではないし、ハルシネーションの問題もある。最後の決定は人間がすべき。冒頭挙げた事業テーマ設定・整理にAIを活用するのは有用だ。
イノベーションのかなりの部分にAIが活用されている。例えば、ベンチャーキャピタルの70~80%が既にAIを活用していると思われる。戦略の文脈では、管理者はLLMを使って仮想群衆を生成し、その知識を活用してSDM(共同意思決定)を支援できる。
製品を設計する場合、マネジャーは何百人もの対象顧客のシミュレートされたサンプルでその魅力をテストし、製品の設計を洗練させるために彼らのフィードバックをしようすることができる。これによりリーンスタートアップのプロトタイプテストサイクルのようなプロセスを加速できる。AIエージェントの活用で精度が上がった形で事業創造ができるのだ。
◎共創による新規事業創出
共創による新規事業創出については、大手企業も残すというEUそしてドイツ等が参考になる。社内新規事業は、外部と組むのが必須で、外部を下請けだけで使うと成功率が落ちる。重要なのはCorporate Entrepreneurshipだ。新規事業(Corporate Venturing)はその一つの方法に過ぎない。なお、新規事業は一つやるだけではただの手法の乗り換えになる。文化創造・オープンイノベーション(OI)・自社育成・DX・短期&長期を組み合わせて複数行いたい。
日清食品のチキンラーメンは画期的な商品であったが、三菱商事を総代理店にしたところも重要な鍵だった。ドイツ企業のシーメンスもそうだが、基本はCorporate Venture Capital(CVC、後述)やOIなどのどれか「一つ」ではなく、中期・長期・短期、社内・社外をポートフォリオ的に組み合わせてイノベーション施策を実施することが重要だ。成長志向の人材は、今後はコンサルやベンチャーではなく“Corporate Venture Builder(CVB)”の仕事を選ぶだろう。起業家は何年もそれをやりたいわけだから。
◎大企業×スタートアップの協業事例
生成AIが景色を変えてしまった。戦略/事業モデル/連携するStartup、それぞれの精度が上がり、実はより専門化が進みそうな予感がする。新規事業≒スタートアップ協業。特にエネルギー、インフラ、物流、小売りなどが特にその傾向がある。
Venture Client Model(VCM)が伸びている(特にドイツとスペインにおいて)。VCMは、大企業がスタートアップの“顧客”として関わることで、イノベーションを自社に取り込む方法。投資ではなく「購入」する点が最大の特徴で、先に出たCVCとは並列で運用するもの。CVCは市場機会を特定し今後の脅威を経営陣に警告することで、将来の競争優位性に焦点を当てるのに対し、VCMはイノベーションをコアビジネスに統合することで、現在の競争力を強化することが挙げられる。
PayPay、BMW、JAL……。テック・事業など様々な連携モデルが進行し成果を上げているが、鍵は本気度と大手企業側の社内の状況整理だ。
AI×共創×新規事業のまとめは以下。
・新規事業は「まずやってみる・PoC(概念実証)」から「大型事業×実績」に移行
・事業テーマ(市場選択・事業モデル)で勝敗が決まる傾向に
・世界では相当の「計画的」大型事業の実績が出てきている
・AIがイノベーションの世界をより専門家・高度化している
・共創による新規事業創出は「必須」であり、相当な企業間の差が出てきている(日本はメーカーがこの分野で弱い傾向?)
・CVBやVCMの勃興が顕著である
・Startup共創は新規事業では当たり前であり、大手企業側の戦略とニーズをどう整理し、人材育成しておくかがキーである
■特別講演(1)
未来を実装する
~テクノロジーの社会実装について~

東京大学 FoundX
ディレクター
馬田 隆明氏
日本マイクロソフトを経て、2016年から東京大学。東京大学では本郷テックガレージの立ち上げと運営を行い、2019年からFoundXディレクターとしてスタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事する。スタートアップ向けのスライド、ブログなどで情報提供を行っている。
自著の『未来を実装する』(英治出版)に基づいて論を進める。ソフトウェアが世界を飲み込みつつある。その流れの中で、2020年代はデジタルビジネスへの規制とデジタル技術の規制領域への進出が、相互作用しながら同時進行する。ソフトウェアが規制を受け、その一方でソフトウェアが規制領域に挑むのだ。
これからのデジタル技術の社会実装、デジタルトランスフォーメーション(DX)には何が必要なのか?歴史に学びたい。1900年前後に、約50年間をかけて動力源=機関は蒸気から電気へ転換した。その際、必要だったのは単なる交換ではなく、電気の特徴に合わせた「仕組み(工場や社会)全体の変化」だった。
電気モーターは小型化が可能で、ロスが少なく送電が可能。電化によって作業順に機械を置けるようになった。中央発電所で発電し遠方の工場に送電/工場拡大が容易/安全/電灯により暗い場所でも作業が可能に、といったメリットもあり、電気という新しい技術は生産性向上に寄与した。
ポイントソリューション(特定の技術)からシステムソリューション(工場や制度など)へ。単なる技術だけを見るのではなく、経営・人事システムを含めたシステム全体を最適化していく。そしてさらに、教育や社会システム(制度やガバナンスなど)のソリューションへと昇華していく必要がある。
テクノロジーを社会で機能させるには制度や公共財も必要だ。特に汎用技術を活かすには制度や組織、仕事のやり方の刷新などの補完的イノベーションが必要。テクノロジーと社会の両方を変える必要があるのだ。
これは現代のDXにおいても同様。技術やサービス面でのDXと社会や制度のDX、両方がないとテクノロジーの進歩を活かせない。社会や仕組みを変えることでテクノロジーを実装するのである。社会実装のための5つの要素は下記スライド参照。

まずデマンド。ニーズがなければ技術は受け入れられない。また、成熟した社会では様々な要因でデマンドが満たされており、課題が見つかりにくく新しい技術が導入されづらい。理想と現実のギャップが課題であり、課題からニーズやデマンドが生まれる。営業活動でもそうだが、「理想を示して問題を提起する」。これが今多くの人に求められる、テクノロジーの社会実装を進める上でも重要な思考法だ。
インパクトとは、個人への影響を超えた社会や制度などの変化や長期的で広範に及ぶ変化である。あるべき社会像(インパクト)が技術の進歩を牽引する。米国の宇宙開発、排ガス規制法、太陽光発電などが例として挙げられるが、実は日本はこうした「ビジョン型リーダーシップ」が圧倒的に低い。インパクト(理想)からはじめよ。それが共創を生む。未来の仮説を作るには、分析+意思の両方が重要だ。理想の未来を描く⇒道筋を描く⇒巻き込む。インパクトを描いてから実現するまではこうしたステップを踏みたい。
技術は良い影響ばかりもたらすとは限らない。よってリスクと倫理を考えなければならない。それをないがしろにした結果、社会実装が止まった事例としては電動キックボード/心臓移植/プライバシーなどがある。倫理はアップデートが必要で、例えば自律走行に向けては「責任」という概念を科学による新たな人間理解と技術の進歩との間で適切にアップデートしていかなければならない。
リスクを馴致しイノベーションを促進するために制度が必要だ。従来の政府中心のガバメントよりも、多くの人が関わる制度だけでなく社会規範なども関係するガバナンスが今は力を持っている。ガバナンスとは関係者や関係するモノの相互作用を通して法律=制度や社会規範、市場、アーキテクチャなどを形成・変化させることで、効率・公正・安定的に社会や経済を治めようとするプロセス全体のことだ。
ガバナンスの変化自体にも多くの人が納得しなければ、物事は前に進まない。センスメイキング=Make Senseする感覚(納得感、腹落ち)が重要だ。コミュニケーションの主役、テクノロジーの社会実装の主役は受け手であり、センスメイキングの主体は受け手側だ。前述してきた、課題、インパクト、ガバナンスなどの複数の項目にわたるセンスメイキングを行っていかないと、社会実装は進まない。
センスメイキングのためのツールはいくつかある。プロトタイプ、参加型、パブリックアフェアーズ……こうしたメイクセンス手法は、デジタルを使えばやりやすくなり、実験的に試していくことも可能だ。小さな成果から始めて好循環を作り出すことが大切。そして、良いインパクトを掲げて共感と納得感を得て、多くの人を巻き込んでいきたい。
テクノロジーの社会の実相のための5つの要素についてまとめる。
・まず市場にデマンドがあることで新たな取り組みが需要されるかどうかが決まる。
・もしデマンドがなければより良い理想を提示して、そこに向けて周囲や社会の協力を仰ぐ。
・新たな取り組みのリスクを減少させながら、自分たちの取り組みが倫理的かどうかを常にチェックする。
・信頼を作る仕組みとしての法律などに気を払い、場合によっては社会のために規制などを変えていくことを提案する。
・信頼は社会の潤滑油であり、社会を変えていくときには信頼を作るためにできることをしていく。
こうした5つの要素を組み合わせながらインパクトを実現し共創していく。共創には(1)ボトムアップでの共創(偶発的共創)と(2)トップダウンでの共創(計画的共創)がある。(1)は人が集まることで何かに気づいて、そこから何かが生まれることに期待する。(2)は特定の目標に到達しようとする(山を登ろうとする)ときに必要な資源を寄せ集める。
スタートアップでよく見るのは(2)トップダウンでの共創だが、実際に起こることは「計画的偶発性共創」であることが多い。ただし「高い目標」だからこそ不確実性は不可避であり、予測がつかない冒険ともなる。目指すべき高い目標があると、その旅路は冒険となる。冒険をクリアするには資源と仲間を集め、共に創らざるをえない。共創・冒険のための旗(目標)を掲げられていますか?
目標があってはじめて共創がある。大きい山=目標だからこそみんなの力が必要。インパクトからはじめることが大事だ。技術的イノベーションだけではなく、技術を活かすには制度や組織、仕事のやり方の刷新などの補完的イノベーションが求められる。社会を変えることでテクノロジーが活用される未来を実装するのだ。
■課題解決講演(2)
感情設計で実現する組織と従業員のエンゲージメント最大化
伝わる、つながる、学べる。強い組織の三大要素

株式会社ヤプリ
事業推進部 EXプロジェクトリーダー
古屋 陽介氏
独立系SIerにてSEとしてキャリアをスタート。2011年に(株)オプトへ入社。ジョイントベンチャーにて広告配信プラットフォーム事業の立ち上げやアライアンス先との協業事業推進などに従事。2020年より(株)ヤプリへ入社。現在は「Yappli」のプロダクトオーナーと「Yappli UNITE」のプロジェクトリーダーを務める。
当社は「デジタルを簡単に、社会を便利に mobile tech for all」というミッションを掲げ、ノーコードのアプリ開発プラットフォームYappliを展開している。Yappliは、直感的な操作で、ネイティブアプリの開発・運用・分析がワンストップで提供可能。
あらゆる業界のリーディングカンパニーがYappliを活用してモバイルDXを推進しておおり、約900の導入実績がある。アプリは顧客エンゲージメント向上のために店舗やECで活用されてきたが、昨今は従業員エンゲージメント向上のために社員向けに活用されることも多い。「UNITE by Yappli」はそのためのサービスである。
◎従業員エンゲージメントの重要性と「感情設計」
人材不足・人材流出・働き方の多様化・人的資本経営の実践……企業を取り巻く環境の変化により、従業員エンゲージメントの重要性はますます高まっている。従業員エンゲージメントとは、組織と社員との関係性を示す指標。組織と社員が相互に信頼できる関係性を構築する=エンゲージメントを高めるには、制度設計に加えて感情設計も重要だ。
感情設計には内発的動機付け=自律性/関係性/有能感が重要。それらを言い換えれば情報伝達(自分の意思で行動を選択・決定できる感覚)/従業員同士のつながり(他者とのつながりを感じられる感覚)/学ぶ環境(自分の能力を発揮し目標を達成できる感覚)、だ。
これらが体感できるイキイキとした組織を妨げるのは、情報伝達の壁(会社の重要な情報が全員に届かない情報格差)/社員間の壁(社員のつながりが希薄化、組織の一体感が失われる)/学びの壁(学習や育成が変化する業務に対応できない)、だ。多くの企業がコミュニケーションや情報伝達の問題に直面していることを示す調査結果もある。
社内報は理念浸透に強いが、閲覧率や制作工数に課題がある。組織の「壁」を超えて、社員の「心」をつなぐ社内エンゲージメントアプリが「UNITE」だ。組織を活性指せる機能がオールインワン。伝え、つながり、学べるアプリとなっている。
スマホからワンタップ(アイコンはオリジナルにできる)、自由なデザイン、最速の情報共有(プッシュ通知など)を実現する。企業理念や会社の取り組みを浸透させる多彩な配信手段を持つ。
「伝わる」例。経営メッセージや企業方針などを発信でき、コラムや動画、ポッドキャストでも配信が可能。デジタル社内報で会社の取り組みを共有でき、紙媒体の電子書籍化も簡単だ。社内報でも、社内ポータルとしても自由なデザインで一元化できる。
「つながる」例。対面交流を促し、デジタル名刺でつながる。パーソナルな興味関心でつながり、より深い信頼関係を構築できる。オリジナルのマイページを作成したり、名刺をQRで交換し仕事やイベントでつながることもできる。サンクスカードで絆を深める職場環境にしたり、コメント機能でコミュニケーションを活性化することもできる。
「学べる」例。どこでも、いつでも、学びが成長を加速する。カタログや業務マニュアルもワンタップでペーパーレスでデジタル化。研修やセミナーも動画で配信し、テストもアプリで簡潔する。
また、社内ポイントがアプリを活性化する。毎日使われるから情報が伝わり、組織が活性化する。

三菱UFJ信託銀行※動画含む、ANAホールディングス、タリーズコーヒージャパン、TBSテレビ、MEホールディングス、百十四銀行の導入事例紹介あり。
当社でも様々な社内イベントでアプリを活用し、交流を活性化している。コンテンツの更新はプッシュ通知で配信し、チェックイン(出社)でポイントがたまり利用が可能。また、「オフィス近くのおすすめランチ」などお題をもとにコメントで交流したり、ポイントが当たる“デイリーくじ”も行っている。
社内アプリに情報を集約すると「いつでも」「どこでも」アクセス可能になる。当社の調査には、月間のアプリ利用率は92%に/プッシュ通知の開封率は99%で確実に情報が届くように/利用者の80%が会社を知るきっかけになったと回答/従業員の90%が社内ポイントを利用/印刷コストが年間3分の1に/使っていて楽しい、といった声が寄せられている。
共創を生むイキイキとした組織へ。社内エンゲージメントアプリUNITEを活用いただければ幸いだ。
■課題解決講演(3)
「使えるAI」で変わる新規事業
― アイデア創出の常識をアップデート

ストックマーク株式会社
マーケティング/インサイドセールスマネージャー
宮成 勇輔氏
2015年に広告代理店に新卒入社。大手企業の営業担当として、デジタルマーケティング全般の戦略策定・実行推進に従事。その後、国内大手家電メーカーのグループ会社にて新規事業企画を推進。0→1の新規事業の発案と既存サービスの新たな収益モデルの構築を担う。19年9月にストックマーク(株)に入社。現在は事業拡大に向けたマーケティング活動全般を担当。
当社は自然言語処理×AIにおけるリーディングカンパニー。ビジネスシーンで活用できる生成AI/国産LLMの開発・活用推進を行っている。(1)データ基盤 (2)生成AI技術基盤 (3)プロダクト基盤の3つの基盤を活かした製造業/開発者向けAIエージェント「Aconnect」と、ノーコードAI Agent開発基盤「SAT」の2つのプロダクトを提供している。
◎新規事業における課題/事業アイデアを生み出すための情報活用術
イノベーション=新規事業開発の活動における課題は、戦略立案~アイデア創出までの上流工程に集中している。1つの製品やイノベーションが成立するには3000のアイデア素案が必要とも言われ、アイデアの質と量をいかに高めるかが鍵だ。
アイデア創出で重要視するべき3つの視点は、誰の(ターゲットを設定すること)/何の課題を(ターゲットの課題を抽出すること)/どうやって解決するのか(課題の解決策を提供すること)。アイデアが変われば生み出す事業も変わる。戦う市場や顧客価値をどこに置くかで、磨くべき技術や必要な機能が変わる。
富士フイルムやアップルの成功事例を見るに、「アイデア=自社アセット(資産)と新視点の掛け合わせ」。技術・市場・ブランド・データ×新市場(顧客ニーズ)・新技術・新ビジネスモデル──アイデアは掛け合わせで無限に作れる。タイミング(市場の成熟度)も図ればイノベーションにつながる。
前提として自社アセットを理解し、掛け合わせになる新視点を継続的に探索することが要諦となる。しかし、かつては他社に負けなかった自社アセット=コア技術が、時間と共に陳腐化している可能性がある。技術について、本質的な強みは何か/原理・メカニズムは何か/何と何を組み合わせたものか/今の材料・プロセスを変えたらどんな新しい用途が生まれるか/より単純化したらどんな新しい応用が可能か/より複雑化するとどんな付加価値が生まれるか、と改めて問いかけることによって、現状を整理し、技術の強みを再定義することが重要だ。
また、「どんな環境でも動く物体であれば検知ができる」などと技術の特性を機能に言い換えることで、技術が持つ可能性を広げ、顧客課題へどのように適応すれば良いかをイメージしやすくするのも有用だ。
前述の「新視点を継続的に探索する」にあたっては情報収集が重要になる。未来のアイデア創出に繋げる情報活用のポイントは、(1)新視点を増やしていく(情報収集) (2)情報を使って発想する (3)情報を蓄積する、である。
(1)のために、誰の、何の課題を、どうやって解決するのか?本命に加え、周年情報と飛び地情報が不可欠であり、膨大な情報分析が必要だ。市場情報、論文、特許などの必要な情報を漏らさずにモニタリングしたい。当社のAconnectは自動で情報収集を行ってくれる。“気づき”を得るために必要なのは新たな視点=新しい言葉だ。意識して見ようとしなければ、知っている情報ばかりになってしまう。検索ワードの幅を広げ、新しい言葉を意識的に発見する仕組みを作りたい。生成Aconnect はAIに知りたいことを問いかけ、視野を広げる設定を自動で設定してくれる。
(2)にあたっては、ファクトとインサイトを分けて考えることだ。そして、連想して発想を広げる。「これは何に使える?」と考える習慣をつけ、新しい情報を「意見のある知見」に変える。
(3)にあたっては、アイデアリストのストック/活用可能性のある技術のリスト化/知見DBの構築、を行いたい。これまで自分の頭に蓄積したものをテキスト化=データ化することで属人化を防ぐ。生成AIの台頭で、組織で情報をストックしいつでも引き出せるようにすることが今後の競争力につながる。
また、他者とのディスカッションを通じて、多様な視点や意見を引き出しながら検討しているアイデアの質を高め、自身の視野を広げていきたい。
例えば沖電気はAconnectを活用して情報収集の幅を拡大、業務効率化と全員参加型イノベーションの実現を目指している。技術交流を活性化し、未来につながるアイデア創出を加速させている。
アイデア発想の実行上の課題は、取捨選択/網羅性/活用、にある。Aconnectは技術情報から市場情報までの豊富な情報ソースからAIが最新情報を一気に収集・調査し、共有する。

前述してきた、情報収集の効率化/情報ソースの多様化/組織内での気づき、いずれにも寄与する。導入を検討いただければ幸いだ。
■特別講演(2)
『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』

株式会社ユーグレナ
代表取締役社長
出雲 充氏
昭和55年広島県生まれ。東京大学農学部卒業後、平成14年東京三菱(現・三菱UFJ)銀行入行。17年㈱ユーグレナを創業、代表取締役社長就任。同年12月に世界で初となる微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功。24年東証マザーズ上場、26年東証一部上場。世界経済フォーラム(ダボス会議)ヤンググローバルリーダー、第1回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」受賞。
なぜミドリムシでベンチャーを立ち上げることになったのか。そして、共創=Co-Creationやイノベーションを実行するにあたって非常に重要だと考えていることを紹介したい。今日のカンファレンスでの学びを現実に移していくヒントにしていただければ幸いだ。
18歳、大学に入り初めてパスポートを取得し夏休みに初の海外=バングラデシュに行った。現地ではGrameen Bankで約1カ月アルバイトをした。2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス総裁が始めたマイクロファイナンスの会社(銀行)である。
字が読めず文字が書けない、年収4万円ほどの貧しい農家の人に3万円相当を貸す。それが生活基盤を整える資金となり、農家が糧を得てきちんと返済される。今では約950万人に1兆円を融資して世界最貧国の人々を助けている。日本に帰ったら弱い立場の人の役に立つこのような仕事をしたいと強く思った。
現地ではカレーと米が主食。米の供給は豊富でお腹を空かせて飢え死にしそうな子供はどこにもいない。しかしどの子も栄養失調状態。カレーに具がほぼ入っておらず栄養バランスが悪く、極度のタンパク質不足だった。
日本に帰って勉強し、一粒で植物と動物のすべての栄養素を持つ「ミドリムシ」の存在を知った。光合成で増える植物プランクトンで、動物のように動き、人間が生活するために必要な59の栄養素をすべて持っている。ミドリムシを食べればバングラデシュの子供の栄養失調は治る。最高の出会いだと思った。
しかし大学の教授は「ミドリムシを海外に持って行くことは絶対にできない」と言う。ミドリムシは食物連鎖の底辺に位置し、栄養価が高いがために菌類を含むあらゆる生き物が真っ先に食べる。昭和50年から多くの先達が培養を試みてきたがうまくいっておらず、実際私も、500回以上失敗を続けた。
当時20歳だった私は、「一生かけて取り組めば培養はできるだろう」と信じて粘り強く取り組み、05年末についに石垣島で大量に育てる方法を発明して培養を実用化した。東大農学部発のベンチャー企業を立ち上げ、予算をつくり約2年で500社に説明したが採択は皆無。「採用実績はどうなってる?他社がもし採用したら、また来てください。ムシは気持ち悪い」の連続であった。
07年末「来年はいよいよ倒産だ」と覚悟しつつあった時に事務所を訪れたのが伊藤忠商事の人。「審査は厳しいが当社は他社がやっていないものをやる」と言った。08年5月、501社目であった同社から採択の通知が来た。それから大々的な販売が始まり、(株)ユーグレナは東証マザーズを経て14年12月に東証一部(現・プライム)市場に上場。大学発のベンチャーで一部上場を果たした初めての会社となった。
情熱を持った若者と大学の技術=金の卵が日本には多々眠っている。全く新しいものに対して企業がどのような態度で望むか、前向きな気持ちで応援していただけるかどうか──。大学発ベンチャーが成功できるか、世の中の役に立つイノベーションの発露がかなうかはそこにかかっている。
今、バングラデシュでは97カ所のスラム街の小学校で約1万人にミドリムシを使った給食が提供されている。1年間給食を食べた小学生は全員栄養失調が治った。大学で研究し、社会実装するために起業しバングラデシュの社会課題を解決し、日本で数々の受賞も果たした。
共創、イノベーションのドライバーになるのは、「一番にこだわる」こと。どの分野でも、競争する限り一番でなくてはダメだ。富士山、琵琶湖、ロシア、グリーンランド島……高く、広い例だが、一番目は知られても二番目を知る人はごく少ない。特にデジタル社会では、二番は存在していないも同じと言っていい。
お金、出自、道具、コネ……そんなものは無くても、一番のミドリムシ会社を作ることができた。イノベーションにたどり着くためには繰り返し努力を続けることだ。たとえ成功率が1%であったとしても、459回挑戦すれば99%成功するのだ。世の中、いかに繰り返し努力する人が少ないことか!「試行回数×(適切な)科学技術=イノベーション」。青色LEDの発明でノーベル物理学賞を受賞した天野浩先生は1500回実験を繰り返したという。
人は、メンターとアンカーの2つが揃っていればイノベーションにたどり着くまで繰り返し努力を続けられる。心の底から尊敬できる先輩・師匠=メンターがいれば夢を持つことができる。そして、それを忘れずにいるためには具体的なアイテム──お守り、賞状、トロフィーなどのモノ=アンカーがあるといい。
私のメンターは前述したノーベル平和賞受賞のムハマド・ユヌス先生。先生からいただいた青いTシャツが私のアンカー。自宅の更衣所にしまってあり、今も毎日見て、師匠やこれまでのさまざまなことを思い出す。85歳の師匠が今も世界最貧国で頑張っているのに私が立ち止まるわけにはいかない。
日本における師匠、安藤忠雄先生とはバングラデシュに「子供本の森(図書館)」を作っている。完成したら見ていただき、イノベーションは社会実装することが大事、ということを実感してほしい。繰り返すが、イノベーションは、適切な科学と繰り返し努力する力の掛け合わせにより実現する。日本がイノベーション大国になることを切に願う。
2025年10月15日(木) 会場対面/オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催
source : 文藝春秋 メディア事業局

