【イベントレポート】徹底解説 新リース会計基準の衝撃 ~企業会計の再定義 -経理財務に求められる変化の本質~

2027年より強制適用される新リース会計基準(日本基準)は、企業の財務報告に大きな変化をもたらす制度改正です。従来、貸借対照表に計上されなかったオペレーティング・リースも原則として資産・負債として認識することが求められ、企業の財務指標や経営判断に広範な影響を及ぼすことが予想されます。この制度変更は、単なる会計処理の見直しにとどまらず、財務戦略、投資判断、さらには企業価値の見せ方そのものにまで波及する重要な転換点となります。

こうした中で、経理・財務部門には早急なリース取引の棚卸と再分類、基準に即した会計処理の再構築、財務諸表への影響分析、経営層や投資家に対する説明責任の果たし方、さらには関連システムや内部統制の見直しなど、多岐にわたる対応が求められています。また、グループ全体での統一方針の策定や、開示情報の整備といった課題も待ったなしの状態にあります。さらに、今回の基準変更はリース戦略そのものの見直しを迫る契機ともなり、「借りる」か「買う」かの意思決定において、これまで以上に会計的な視点が重要となってきます。

本カンファレンスでは、新リース会計基準の制度的背景と適用上のポイントを丁寧に紐解くとともに、経理・財務部門が今まさに直面している実務課題とその対策を多角的に取り上げます。監査法人やシステムベンダー、先進企業の取り組み事例を交えながら、制度対応のみに終始せず、変化を機会としてとらえるための視座を提供した。

■基調講演

新リース会計と財務分析
~実態が変わらなければ分析結果も変わらない(はず?)~

一橋大学大学院 経営管理研究科
教授
田村 俊夫氏

1986年に東京大学法学部を卒業し、日本興業銀行に入行。89年ハーバードロースクール修士。ニューヨーク州弁護士登録。米国弁護士事務所勤務、日本興業銀行審査部、世界銀行グループIFC投融資担当官、みずほ証券アドバイザリー第1グループ部長、投資銀行第7部長、経営調査部上級研究員等を経て、2017年4月より現職。20年には経済産業省・事業再編研究会の委員を務め、「事業再編実務指針」の作成に関与。

新リース会計基準つまり、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」は、基本的にIFRS(国際財務報告基準)と同様だ。ただし、法人税法には基本的に変更はない。2027年度から強制適用され、25年度からの早期適用も可能だ。

実態は変わらないのに、財務指標には大きな影響がある。特に以下の影響が大きい。
・B/S面では、使用権資産とリース負債(有利子負債)が両建てで増加
・P/L面では、EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)が増加

財務指標は、企業経営のKPI、経営者報酬決定指標、投資家とのエンゲージメントやIR、銀行借り入れの財務制限条項等においてきわめて重要な役割を果たしているので、新リース会計基準で「見かけ」がどう変わるのかを理解する必要性がある。日本基準では早期適用が今年度始まったばかりであるが、IFRS新リース会計を既に適用している日本企業の事例(すかいらーくHD)は大変参考になるため、後ほど引用する。

◎財務分析の観点から見た新リース会計のポイント

今回の新リース会計基準では、オペレーティング・リースがなくなり、ファイナンス・リース的な会計処理に一本化される。ファイナンス・リースは前述のように、B/S上は「リース負債」とそれに見合う「リース資産」(新リース会計基準では「使用権資産」)を両建てで計上。P/L上はリース資産の「減価償却費」とリース料中に含まれる「支払い利息」を計上する。新基準では、個別のリース契約では費用先行型、トップヘビーになるといえる。

BSギャップとPLギャップについて。BSギャップ:「使用権資産残高-リース負債残高」…常にマイナス。新リース会計基準による純資産は、BSギャップ分だけ小さくなる。PLギャップ:「リース負債返済額-減価償却費」。集計ベースでは前半と後半の比重によりプラス/マイナス。PLギャップがマイナスだと営業利益~当期純利益はその分減少する。

個別リース契約ベースでは、PLギャップの累計額=BSギャップという関係が成り立つ。リース期間を通算するとPLギャップの合計はゼロとなるため、リース開始時とリース終了時のBSギャップはゼロとなる。

新リース会計基準が財務諸表に与える影響について。
貸借対照表(B/S)
適用前:オペレーティング・リースはオフバランス。
適用後:資産に「使用権資産」が計上され、負債に「リース負債」(=有利子負債)が計上される。BSギャップは集計ベースでも常にマイナスなので、純資産はBSギャップ分小さくなる

損益計算書(P/L)
適用前:リース料(=元本返済相当額+利息相当額)が営業費用に。
適用後:リース料(賃借料)が減価償却費と支払利息に置き換わる。当期純利益はPLギャップ分だけ差異。前半期のリースの比重が大きい場合は当期純利益は減少し、後半期のリースの比重が大きい場合は当期純利益は増加する。

キャッシュフロー計算書
適用前:リース料は営業キャッシュフローに反映されている。
適用後:リース料相当額のうち、元本返済相当額は財務キャッシュフローに含まれ、利息相当額(支払利息)は営業キャッシュフローに含まれる。営業CFは増加し、財務CFは減少する(営業CFの増加と同額)。なお、リース開始時には資金の移動がないので、使用権資産の「取得」は投資CFに計上されず、リース負債の「借入」は財務CFに計上されない(B/Sに直接両建てで出現)。

税務への影響
会計上の扱いと税務上の扱いは別であり、税務上の扱いは各国の税制によって決まる。日本の税務では、新会計基準にかかわらず税務上はオペレーティング・リースとファイナンス・リースの分類を維持。従来のオペレーティング・リースについては会計と税務の不一致が発生する。

新リース会計基準の適用は、時系列での財務分析を歪ませる。※B/SとP/Lについて、すかいらーくHDがIFRSを導入した際の旧リース・新リース会計基準の比較資料を用いての解説あり(例・実態が変わらないのに賃借料が減価償却費、リース負債返済、利息の支払い処理に変わるため営業キャッシュフローは増加、一方で財務キャッシュフローは減少、など)。

◎財務指標への影響

収益性指標への影響について。まず、マージン:P/L項目相互間の比率。
営業利益率は、一般的には若干上昇する。分子の営業利益が、「旧リース料-使用権資産の減価償却費」分だけ増加し、分母の売上高は変化なしのため。EBITDAマージンは、一般的には上昇する。分子のEBITDAが旧オペレーションリースのリース料分だけ増加し、分母の売上高が不変のため。

資本利益率:P/L項目とB/S項目間のクロスオーバー比率。
ROE(自己資本利益率)は、一般的には変化は小さい。分子の当期純利益はPLギャップ分だけ増減、分母の自己資本はBSギャップ(=PLギャップ累計額)だけ減少するため。ROIC(投下資本利益率)は、一般的には低下する。分子である税引き後営業利益は営業利益の変化に準じ、分母の投下資本はほぼリース負債計上分だけ増加(BSギャップの影響は小)するため。ROICは昨今重視されている指標なので、下がったことの説明ができるように備えることが重要である。

安全性指標への影響。まず、静態比率:B/S項目相互間の比率。
自己資本比率は、一般的には低下する。分子である自己資本はBSギャップ(=PLギャップ累計額)だけ減少し、分母の資産合計は、旧オペリースの使用権資産の計上分だけ増加するため。D/Eレシオは一般的には上昇(悪化)する。分子の有利子負債は、旧オペリース元本相当額のリース負債計上分だけ増加し、分母の自己資本はBSギャップ(=PLギャップ累計額)だけ減少するため。

流動比率は、一般的には若干低下する。分子の流動資産は変化なし、分母の流動負債は1年内に返済期限が到来する旧オペリースに係るリース負債の分だけ増加するため。インタレスト・カバレッジ・レシオは一般的には若干低下する。分子の営業利益は「旧リース料-使用権資産の減価償却費」分だけ増加し、分母の支払利息は旧オペリースの利息相当額分だけ増加するため。

格付け機関などが重視する、有利子負債EBITDA倍率は、上昇する場合も低下する場合もある。分子の有利子負債は、旧オペリース元本相当額のリース負債計上分だけ増加し、分母のEBITDAは旧オペリースのリース料分だけ増加するため。ただし、有利子負債EBITDA倍率が新基準で上昇するか低下するかは、旧基準による有利子負債EBITDA倍率とリース負債リース料倍率のどちらが高いかによる。

EBITDAマージン、ROIC、自己資本利益率、D/Eレシオなどの数値の大きな変化には気をつけなければならない。※財務指標への影響について、すかいらーくHDの2018年度実績を、旧基準と新基準(仮定)で比較した資料を用いての解説あり。

◎バリュエーション指標への影響

株主価値マルチプルへの影響について。PERは、一般的には変化は小さい。分子の株価は実態不変なので変化なしと想定、EPSはPLギャップ分に応じて増減する。PBRは若干上昇する。分子の株価は実態不変なので変化なしと想定、BPSはBSギャップ(=PLギャップ累計額)だけ減少するため。

重要なのは企業価値EBITDA倍率で、一般的には低下する場合が多いであろう

 

新リース会計基準によって、いくつもの指標の数値が変わる。財務の実態は変わらないため、本来は判断も変わってはいけないのだが、数値が劇的に変化する指標もある。社内外のステークホルダーや経営者、投資家などにきちんと認識してもらうため、また、ネガティブな影響を受けないために、実務担当者は新基準の決算書が出てくる前に事前に自社の財務指標へのインパクトをシミュレートしておくことが重要である。

■課題解決講演

契約書の洗い出しと新リース判定の
効率化を実現するAI活用方法

株式会社TOKIUM
ビジネス本部プロダクトマーケティング部
大槻 直輝氏

2020年にTOKIUM参画。入社以降営業部としてお客様の課題に寄り添い、「TOKIUM」シリーズの提案を行う。その後新規事業の立ち上げに携わり、24年6月3日に「TOKIUM契約管理」をリリース。現在は「TOKIUM AI新リース判定」のプロダクト責任者を務める。

◎実質あと1年。最も“つまずく”ポイントは

新リース会計基準の対応は、事前検討⇒方針決定 プロセス構築⇒適用準備⇒本番適用、の4段階に整理できる。中でも適用準備段階(ドライラン実施=新システムテスト運用とプロセス見直し/未適用注記の作成)の確保には、2四半期分の準備期間が必要。そのため、3月決算の企業の場合、2026年9月末までの事前検討完了が理想だ。

多くの企業が直前する壁は、(1)契約情報が散在している(PDFと紙の契約書が混在、本社と現場で契約情報の管理方法がバラバラ、どこに契約書があるかわからない)(2)リース判定の負担が重い(確認が必要な隠れリースが想定よりも多い、対象となる取引を特定する作業も困難、会計基準の解釈が難しい)である。

壁(1)の場合、会計システムで勘定科目ごとに取引一覧を確認し、適用の内容を見てリースにあてはまりそうな取引を特定する必要があるなど、実務負担が増加する。また、属人的な体制で情報共有・連携ができていない場合も多い。

壁(2)の場合、リースに該当する可能性の高低を判断するのは難しく、当社が25年7月に実施したリース識別クイズでは正答率は48.2%であった。用語の解釈は個人によってまちまちで、リースの判定に解釈の余地がありすぎるのだ。固定資産管理システムに連携するまでの契約書の集約・リースに該当するかの判断という前さばきの部分でつまずく企業が多い。

日本石油輸送は、TOKIUMのサービスを導入し契約書の一見管理とAI判定で、新リース会計基準に対応した。原本のスキャンから保管まで代行可能なため、過去の契約書を含めスキャンから原本保管を委託することで、電子で一元管理できるようになった。スキャンだけではなくデータ化により全文検索が可能になることで、契約書の洗い出しも容易になった。

また、同社はAIによるリース識別サポート機能で業務効率化も行った。AIによる識別サポート機能で継続的に発生する契約書の確認作業を効率化できるようになった。リース判定に誤りがあった場合の財務諸表の修正や決算発表の遅延などのリスクを大幅に軽減できた。

◎解決アプローチ:業務として“識別が回る”仕組みへ

TOKIUMのAI新リース判定は、契約書のスキャンを代行/リースを含む可能性を自動判定/リースの資産登録を自動化、という機能を持つ。TOKIUMに契約書を送るだけで、製本された契約書も非破壊で全件スキャンする。

例えば判定理由には条番号が引用されるため、契約書から確認すべき条文を即座に特定可能。複数取引の判定結果を一覧として出力可能なため、効率的な監査対応を実現する。また、作成したフォルダの単位で契約書の閲覧情報を管理/リースの判定結果によって契約書を絞り込む/全文検索で契約書の条文内のキーワードで検索/任意の出力フォーマットでCSVデータを出力、といったことも可能だ。※AI新リース判定のデモンストレーション動画あり

■特別講演(1)

新リース会計基準のインパクト
~基準適用における実務上のポイント~

東京センチュリー株式会社
取締役 専務執行役員
経営企画部門長(兼)経理部門長
平崎 達也氏

1990年4月に旧東京リース(株)へ入社。2008年10月に経理部長に就任し、09年4月には旧東京センチュリーリース(株)において経理第二部長を務める。その後、13年10月に経理部長、17年4月に東京センチュリー(株)の執行役員 経営企画部長(兼)経理部長として、経営企画と経理の両面での重要な役割を担う。20年4月には常務執行役員 経理部門長(兼)経営企画部門長補佐、21年6月には取締役 常務執行役員 経理部門長(兼)経営企画部門長補佐に就任。22年4月には取締役 常務執行役員 経営企画部門長(兼)経理部門長、24年4月からは取締役 専務執行役員 経営企画部門長(兼)経理部門長として、経営企画部門と経理部門の責任者を務め、現在に至る。

◎新リース会計基準基準の概要

企業会計基準委員会(ASBJ)は、国際的なリースの会計基準との整合性を図ることを目的として、2024年9月に新リース会計基準を公表した。本基準は、2027年4月1日以降に開始する事業年度の期首から強制適用される

会計基準の見直しがなされた主な理由は、国際的な会計基準との整合性図ることは財務諸表間の比較可能性を高めること/すべてのリースについて資産及び負債を計上することに利用者のニーズがあること/重要な負債が計上されないことで、財務報告の信頼性に関するリスクが大きいことである。

リースに関わる会計・税制は幾度も変化してきたが基本的に会計と税制の取扱いは同じであったが、今回の一連の改正により借手について会計と税制は基本的に切り離されることとなった
新リース会計基準の適用対象は、監査法人の監査を受ける上場企業や会社法大会社等であり、中小企業等は適用する必要はない。上場企業のうち、連結をIFRS任意適用する企業は、個別財務諸表のみ新リース会計基準を適用する。新リース会計基準は連結財務諸表だけでなく個別財務諸表(単体)にも適用されるので、税制に波及し、令和7年度税制改正においてリースに関わる税制が一部改正された。税制改正はすべての企業が適用対象となる。

◎借手側のインパクト

借手側の会計・税務の主な変更は以下のとおりである。

・単一の会計モデル(オペレーティング・リースのオンバランス化)の導入:
新リース会計基準では国際的な会計基準と同様に「使用権モデル」を導入し、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの分類を廃止する。借手は、原則すべてのリースを「使用権資産」および「リース負債」として貸借対照表(BS)に計上する。これにより、損益計算書(PL)には減価償却費と支払利息が計上される。これまでオペレーティング・リースの費用は定額だったが、新リース会計基準適用後は現行のファイナンス・リースと同様の会計処理となるため、費用はリース期間前半に多くの費用が配分となる。また、オペレーティング・リースの会計処理変更に伴い、借手の財務諸表に影響が出る。オンバランス化により総資産や有利子負債が増加するため、自己資本比率やROA、DEレシオといった指標は悪化する。一方で、支払リース料が減価償却費と利息に区分されることで、営業利益やEBITDA、営業キャッシュフローなどは好転する。経営管理指標の見直しの可能性や資金調達への影響に留意したい

・リースの識別と業務プロセスへの影響:
契約締結から満了までの間に「リースの識別」や「リース期間の決定(オプション評価)」などこれまでにはない新たなステップが加わり、業務プロセスが複雑化する。すべてのリースがオンバランスとなり、サービスと会計処理が異なるため、「リースの識別」が重要となる。新リース会計基準では、契約が「特定された資産の使用を支配する権利」が移転しているかどうかが、リースとサービスの境界線となる。また、原則としてリースとサービスを分けて会計処理を行う。借手はリースとサービスを分けずに、サービスを含めリースとして会計処理を行うことを選択することができる。資産と負債は大きくなるが実務上は簡便となる。借手のリース期間はIFRSとの整合性を図り、延長・解約オプションを評価<リース期間=解約不能リース期間+延長・解約オプションの行使可能性が確実な期間>するが、ファイナンス・リースの再リースは、延長オプションに含めていない場合、独立としたリースとして会計処理が可能でこれまでどおり発生時の費用処理となる。

・簡便的な取り扱い:
新リース会計基準では、実務負担の軽減のため、重要性を勘案した各種簡便的な取り扱いが容認されている。短期リース(12か月以内)および少額リース(300万円以下等)は、オンバランスせず支払リース料での費用計上が可能である。また、使用権資産総額に重要性が乏しい場合(未経過リース料の期末残高が、有形・無形固定資産等との合計額に占める割合が10%未満)の場合、オンバランスをするが簡便な処理(割引不要、利息定額法)が可能である。

・法人税、消費税への影響:
法人税は引き続き、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分して所得計算を行うなど基本的に変更はない。したがって、新リース会計基準適用会社は、オペレーティング・リースについて、原則として会計上の費用と税務上の損金に不一致が生じるため、申告調整が必要となり事務負担が懸念される。ただし、会計基準で認める簡便的な取り扱いを適用すれば、申告調整が不要。消費税については、新リース会計基準の適用に関わらず、従来の課税関係が維持される。

◎貸手側のインパクト

貸手側は「収益認識に関する会計基準」との整合性を図る変更を除き、現行の会計処理が基本的に踏襲される。主なポイントは以下のとおりである。

・「第2法」の廃止:
ファイナンス・リースの収益認識において、リース料受取時に売上高と売上原価を計上する「第2法」が廃止される。これにより、多くのリース会社の売上高・売上原価は大幅に減少するが、売上高総利益に変更はない

・サブリース取引:
現行基準の「転リース取引」から、より広い概念で「サブリース取引」が定められた。中間的な貸手は原則として、ヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として処理する。サブリースの分類(ファイナンス・リースかオペレーティング・リース)は、原資産そのものではなく、ヘッドリースから生じる使用権資産を参照する
中間的な貸手はヘッドリースに対してリスクを負わない場合、貸借対照表上で資産・負債を計上することなく、損益計算書上で受取リース料と支払リース料の差額を損益に計上することができる。転リース取引にヘッドリースがファイナンス・リースに該当する場合は、現行基準を踏襲する。

・税制改正(消費税への影響):
令和7年度税制改正により、法人税および消費税における「延払基準(リース譲渡に係る時期の特定)」が廃止される。特に、消費税への影響が大きく、リース期間にわたる分割納税から、リース開始時の一括納付へと変わる。ただし、2030年3月31日までは経過措置として特例の継続適用が可能であり、終了後は残額を10年均等で納付することとなる。なお、法人税は会計上のリース収益を益金算入することとされたため、申告調整不要。

◎最後に

借手側となる財務諸表作成者に伝えたい。新リース会計基準は複雑であるが、リースは不動産や航空機等の大型物件を除き、通常、取引が大量かつ少額であり、多くの企業においてはオンバランスしても財務諸表に与える影響は小さいので、会計基準を適用することに伴うコストが、ベネフィットに見合わない。したがって、多くの企業は会計基準で認められる各種簡便的な取り扱いを積極的に活用すべきである。一方で重要性のある企業はデジタルツールを活用し、効率化を進める必要がある。企業はコストベネフィットを見極めて冷静な対応が求められる。

■課題解決講演

公認会計士合格レベルのAIが新リース会計のリース判定を自動化
~ FA社の「経理AIエージェント」が実現する次世代経理業務のすべて ~

ファーストアカウンティング株式会社
代表取締役社長
森 啓太郎氏

1974年6月3日生。ソフトバンク(株)を経て、アカマイ・テクノロジーズ日本法人立ち上げに参画。営業本部長に就任し、2008年度営業成績は世界No.1などの実績を残す。シンギュラリティが起こりつつあるAIを使うことで会計システムへの自動入力や確認作業の自動化が可能となれば、経理の人手不足の課題解決できると共に、企業価値の向上など重要業務にリソースを割くことができると考え、16年6月にファーストアカウンティングを設立。

株式会社プロシップ
システム営業本部 本部長
巽 俊介氏

2006年、(株)プロシップ入社。以降、大手・優良企業を中心に多数のソリューション提案に従事。14年よりIFRS推進室長、23年よりリース会計ソリューション推進室長。現在は「日本における新リース会計基準の円滑な適用」という志を持ち、セミナー講師としても積極的に活動している。

まずは、ファーストアカウンティングの森氏から講演開始。
新リース会計基準が大切な理由は以下の3つ。(1) 社長やCFOが機関投資家や格付機関向けの説明で重要 (2)ミスがあると、機関投資家からのCFOと社長の信頼性が低下 (3)経理部以外も真剣にやらないと“出世に悪影響”

IFRS16の翻訳ともいえる日本の新基準により、投資家や格付け機関が気にする指標であるROA/ROIC/自己資本比率が軒並み下がる可能性がある。例えば、大手コンビニはIFRS16の導入によりROAが1%、自己資本比率は10%下がった。大手通信会社はそれぞれ2.5%、5%下がった。

守秘義務がある監査法人は他社事例を教えてくれない。各事業部の“経理の正社員”でもリースの判定を頻繁に間違えるし、監査法人のサンプルチェックでオンバランス判定のミスを指摘されることもある。リース会計判断が高度で難解なため、エース級人材を判断業務に投入せざるを得ない。しかし、この業務では社内昇進が難しく労働市場価値も上がらないため“離職リスクUP”の懸念がある。深刻な経理人材不足の昨今、ゆゆしき問題だ。

当社のビジョンは「経理シンギュラリティにより、人手不足という社会課題を取り払い経理パーソンの力を、企業価値を生む力へと解き放つ」である。シンギュラリティとはAIが人間の知能を超える転換点のこと。弊社はGPT4oやGPT4o-miniより賢い経理AIエージェント「Deap Dean」の自社開発に成功した。例えば、Deap Deanは日本の公認会計士試験短答式科目で満点を取っている。

Deap Deanはオフバランスへの提言も可能。AIでリース契約の内容を精査し、貸借対照表への影響を最適化する。

当社の経理AIはすでに150社以上に導入されている。契約データ抽出から検証・レビューまでの、実務におけるAIによる業務削減は83%(1契約あたり所要時間は3時間⇒0.5時間)という調査結果がある。

続いて、プロシップの森氏が「新リース会計基準で新たに増える業務への対策」と題して講演。
新リース会計で「リースの識別」ほか、業務は非常に増える。ファーストアカウンティングのDeep DeanのようなAI-OCR/AIエージェント活用により新リース会計基準判定を行い省力化を行いたい。

契約書には書いていない情報を含め経理部に契約情報をいかに集約するか、が要諦だ。AIの活用によりリースの識別をより正確かつ効率的に行い、その結果をリース管理システムに連携することで、煩雑な経理業務の大幅な省力化が実現する。

システム対応の部分については、当社はIFRS任意適用企業の100社超の導入実績から導かれた知見をもとに、SaaSの「ProPlus/ProPlus+」を提供している。

例えば、遡りの処理の際には遡り分の減価償却費、支払利息の調整額が処理月度に自動計算される必要がある。システムによっては減価償却費のみ調整され、支払利息の調整が手仕訳になるケースもある。

ProPlus+は、100社超のIFRS16対応実績から、新リース対応を円滑に進めるための独自ノウハウを保持している。適正なコストで運用可能で、将来の会計基準変更にも対応でき、強制適用に合わせて余裕をもった導入ができるシステムだ。顧客主体で導入できるセルフサーブ型のオンボーディングのため、導入中は顧客側で設定変更を随時行うことができる。

花王は、以下の理由でProPlus+を採用した。(1)プロシップは100社を超えるIFRS16号(リース)対応の実績を有しており、IFRS対応並びに同様の対応が求められる新リース会計基準対応に向けて、質の高いサービスを提供できる。 (2)ProPlusシリーズとして多くのユーザーに認められた必要十分な機能群や操作性を有している。また、SaaS製品として将来にわたって最新の制度対応、拡張機能を享受できる。

■特別講演(2)

「新リース会計基準と税務」への実務対応

公認会計士・税理士
『新リース会計と税務 完全解説』著者
太田 達也氏

昭和56年慶応義塾大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現 みずほ銀行)勤務を経て、昭和63年太田昭和監査法人(現 EY新日本有限責任監査法人)入所。現在、豊富な実務経験・知識・情報力を活かし、各種実務セミナー講師として活躍中で、複雑かつ変化のめまぐるしい会計及び税実務のわかりやすい解説と、実務に必須の事項を網羅した実践的な講義には定評がある。

改正内容のポイントは以下。
・リースの借手について、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別を廃止し、原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上する。例外は、短期リース・少額リースのみ。
・改正前の取扱いによれば、オペレーティング・リースを“利用すればするほど”総資産を圧縮することができ、ROAやROICなどの経営指標が改善するという点が問題視されていた。
・国際財務報告基準および米国基準が先行して改正し、日本基準の改正も今回その改正に合わせたものである。

以下、項目ごとの解説が行われた。
リースの定義
「リース」とは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約または契約の一部分をいう(会計基準6項)。
「契約」は、収益認識会計基準と平仄を合わせており、書面に限らず、口頭や取引慣行等も含まれるし、契約の結合の取扱いが適用される点に留意が必要である。
いわゆる「使用権モデル」が採用されており、これによりファイナンス・リースおよびオペレーティング・リースにかかわりなく、借手において使用権資産およびリース負債を計上する処理になる。

リースの識別
次の2つをいずれも満たしている場合は、契約にリースが含まれると判断される。
(1)使用権の対象となる資産が、特定されていること
(2)特定された資産を使用する権利が、借手に移転していること(原資産の使用権が借手に移転していること)
これまでなかった取扱いであり、各企業において一からこの判定を行う必要がある。
→新たにリースとして識別されるものが生じ得る。拾い漏れがないように、対応する必要がある。現場にどのように指示をし、それをチェックするのかが重要な課題である。

リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分の取扱い
リースを構成する部分とリースを構成しない部分(サービス)を原則として区分するが、例外的に両者を区分しないで、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分を合わせてリースを構成する部分として処理することが認められる。
→リースを構成はない部分に重要性があるときに、この例外的な処理を適用すると、資産および負債の計上額がより多くなり、ROAやROICが低下する影響が生じる。
原則か例外かは会社内で統一する必要はなく、性質および企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに選択できるため、重要性の高い原資産のグループについてのみ原則を適用し、それ以外のグループについて例外を適用することも考えられる。

リース期間の見積り
リース期間は、リース契約書に定められた解約不能期間と一致する場合が多い。しかし、借手に延長オプションまたは解約オプションの権利があり、延長オプションの行使をすることが合理的に確実である場合および解約オプションの行使をしないことが合理的に確実である場合は、それらの対象期間を解約不能期間に加える必要がある。
主に不動産賃貸借取引について、この論点が生じることが考えられる。経済的インセンティブを生じさせる要因の有無を考慮して判断するとされているが、適用指針設例8-1から8-5に示されている考え方を参考にして、判断することが考えられる。

使用権資産およびリース負債
リース負債は、リース料総額の現在価値により算定し、リース開始日に計上する。(ただし、利子込み法による場合は、リース料総額で計上)
使用権資産は、当該リース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用および資産除去債務に対応する除去費用を加算した額により計上する。
リース料には、残価保証に係る借手による支払見込額(リース期間終了時の原資産の処分価額が残価保証額に満たない場合のその差額の支払見込額)が含まれる点に留意する必要がある。
一方、残価保証額はリース料に含まないとされ、かつ、使用権資産の減価償却において残存価額として控除しないものと改められた。

利息相当額の配分
利息相当額の配分は、原則として、利息法による。ただし、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合は、利子込み法または定額法による配分が認められる。
使用権資産総額に重要性が乏しいかどうかを判定する10%ルールは、改正前と同様の内容であるが、次の3つの理由により、分子と分母に入れる未経過リース料の期末残高が改正前よりも多くなる点に注意しなければならない。
未経過リース料の期末残高には、(1)オペレーティング・リースに係る数値も含めることとなる影響、(2)リースの範囲が拡充される影響、(3)延長オプションの行使が合理的に確実であると判断されるときのリース期間の伸長の影響が反映されることとなり、改正前よりも多くなることが考えられる。

使用権資産の償却
契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース→自己所有の固定資産と同じ減価償却方法を適用
契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリース→リース期間定額法など、企業の実態に応じたものを選択適用した方法により算定し、借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとする。
改正点としては、(1)残価保証額を残存価額とする取扱いの廃止、(2)税務上の取扱いから、備忘価額(1円)まで償却することになる点である。

貸手の会計処理
貸手の会計処理については、「収益認識に関する会計基準」との整合性を図る点、リースの定義およびリースの識別を除き、現行の企業会計基準第13号の定めが踏襲されている。
改正後は、2類型の会計処理となるが、いずれも利息相当額のみがリース期間にわたって配分される。

適用初年度の取扱い
会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する。
→原則(完全遡及アプローチ)
ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができる。
→例外(修正遡及アプローチ)
例外(修正遡及アプローチ)を選択適用した方が実務負担が軽減され、また、例外を適用した場合に各種の経過措置の適用を受けることができ、当該経過措置の適用により、さらに実務負担が軽減される。
リースの識別に係る経過措置、ファイナンス・リースに分類していたリースに係る経過措置、オペレーティング・リースに分類していたリースおよび新たに識別されたリースに係る経過措置などから成っている。いずれも実務負担を軽減するものである。

そのほか、財務指標への影響、税務上の取扱い(法人税、消費税、地方税)などについて、詳しい解説が行われた。

著書『新リース会計基準と税務 完全解説』(税務研究会出版局・刊)も参考にされたい。

2025年12月12日(金) 会場参加/オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催

source : 文藝春秋 メディア事業局