感染は収まっても混乱は止まらない。そして文在寅政権は4・15総選挙に臨む。選挙後はいったいどうなるのか?ポスト・コロナの日韓関係は?
嘘や欺瞞を厭わない信者たち
1月20日に最初の新型コロナウイルス感染者が出た韓国では、3月31日までに9500人を超える感染者が発生した。地域別に見ると、6500人を超える大邱(テグ)が圧倒的だ。韓国の南東部に位置する人口243万人の大都市にあって、国民を恐怖に陥れた要因は、新興宗教「新天地イエス教証しの幕屋聖殿」(以下、新天地)だ。
発端は2月18日、大邱で初となる感染者の発生だった。61歳の女性患者の足取りを調べると、症状が出た後、病院を抜け出して教会の礼拝に参加していたことが発覚した。礼拝を行ったのは、信者数約9000人にのぼる「新天地大邱教会」。防疫当局がこの礼拝に参加した信者の疫学調査を実施すると、大邱地域で翌19日に14人の感染者が発覚し、その後、最大で1日700人以上の感染者が発生するなど急激に感染が拡大した。
新天地は韓国社会で異端とされる新興宗教で、1984年に李萬熙(イマンヒ)氏(88)が創設した。本部は京畿道果川(キヨンギドクアチヨン)にあり、信者数25万〜40万人と推定される巨大宗教集団である。
新天地の信者たちは布教のためなら嘘や欺瞞を厭わない。彼らは身分を隠して別のキリスト教の教会に潜入したり、学習塾のように装った施設を運営して、新しい信者を抱き込むこともある。信者を獲得すると、「伝道点数」が与えられる一方、布教できなかった信者には罰金が科される。そのため、信者は家庭や職場を捨て、布教だけに血道を上げる。万が一、信者が家族から脱退を勧められると、彼らを家出させて集団生活を送らせるのだ。
大邱教会は、李総会長の故郷で、新天地が「聖地」と呼ぶ慶尚北道清道(キヨンサンプクドチヨンド)と近く、全国から信者が礼拝に駆けつけていた。そのため全国の信者を調べる必要があり、防疫当局は信者名簿の提出を求めたが、新天地側は布教を秘密裏に行っているため、非協力的な態度を貫いた。
コロナを政争の具に
この新天地の態度が韓国社会で大きな批判を浴びると、政界も「新天地叩き」に乗り出した。与党の次期大統領候補の1人である李在明(イジエミヨン)京畿道知事は、「信者名簿に漏れがある」として、警察を率いて教会を“急襲”するパフォーマンスを披露。これによって「次期大統領にふさわしい候補」の第2位に浮上した。これに負けじと、朴元淳(パクウオンスン)ソウル市長は、李総会長らを「未必の故意による殺人罪」で告訴した。
謝罪会見での新天地・李総会長
3月2日、ついに李総会長がカメラの前に姿を現し、謝罪会見を行った。李氏は2度にわたり土下座をすると、政府の防疫に積極的に協力すると語り、白旗をあげた。
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source : 文藝春秋 2020年5月号