無類の酒好き2人が自粛明けで「カンパイ」。吞兵衛たちは往く。酒場という聖地へ酒を求め、肴を求めて――。アフターコロナ時代は、どのように酒を飲み、楽しむか。酒飲みの新たなスタンダードを語り合う。
外で飲むことを解禁
角田 吉田さん、初めまして。今日は少し緊張してます。実は外で人と飲むのは3カ月ぶりなんです。
吉田 えっ、そうなんですか。
角田 はい。3月末からずっと、基本的には家に籠っていました。
吉田 じゃあ、今から飲む酒は、記念すべき1杯ですね。この店(神田「みますや」)は、日本酒が種類も豊富で美味しいんです。山口県にある永山本家酒造場が作っている「貴(たか)」なんて、口当たりもよくて、自粛明けには最高ですよ。あと、酒のアテには、ここは馬刺しが絶品です。ドジョウ鍋も癖になりますね。バイ貝の煮つけなんかもいい。
神田「みますや」
角田 あ、じゃあそれください。
吉田 僕も同じものをいただきます。僕の地元の高知では「手酌は打ち首」という妙な格言がありますが、今日はソーシャルディスタンスを意識して、それぞれ手酌でいきましょう。では、カンパイ。
角田 カンパイ。
吉田 僕は角田さんの小説のファンで、今日は楽しみにしてました。
角田 ありがとうございます。吉田さんはもう外で飲むのは、解禁されたんですか。
吉田 はい。もちろん最大限コロナ対策をとりながらですけど。先日は奥多摩にある小澤酒造という酒蔵へロケに出かけました。なんだか解放された気分になって、澤乃井という日本酒に加えて、古酒などもあったので、グイグイ飲んでいたら、生まれて初めてというくらいにメチャクチャに酔っぱらいました。
角田 生まれて初めて?
吉田 いや、普段はどんなに酔って記憶をなくしても、自力で家まで帰ってくるんです。ところが、あの日はなんとかスタッフに連れられて戻ってきたものの、マンションの階段の踊り場のところで力尽きてしまいました。しょうがないのでスタッフ2人がかりで両脇を抱えてもらい、ふらふらしながら、玄関まで連れて行ってもらったんです。ご近所の奥さんがそれを見ていて、ちょっと恥ずかしかったです。
角田 記憶はあったんですね。
吉田 薄れゆく意識のなか辛うじて覚えている程度です。普段でも、大体4軒ぐらい酒場をハシゴするんですが、3軒目からはきれいさっぱり忘れています。自慢することじゃないですけど(笑)。
角田氏(左)と吉田氏
自粛明けは要注意
角田 スタッフの方によると、吉田さんは1週間前にあった久しぶりの飲み会でも、大はしゃぎだったそうですね。いつもとまるで様子の違う酔い方で「こんなに楽しくなるとは思ってなかった、よ〜ん!」と、叫ばれていたとか。
吉田 お恥ずかしい。僕も緊急事態宣言が明けて蕎麦屋や寿司屋で一人飲みすることはあったんですが、人と一緒に飲むことはなかったんです。だから、あの時は自分がこんなに酔ってしまうなんてとびっくりしました。やっぱり僕自身もどこか、このコロナ禍で「抑圧」されていたんだなと思いましたよ。
角田 それは、しみじみといいお話ですね。
吉田 6月11日に東京アラートが解除されて、東京で夜12時までお酒が飲めるようになった最初の週末、酒のトラブルのため出動した救急車が都内で急増したそうです。みんなこの時を待ち望んでいたんでしょうけど、やっぱり飲み過ぎはよくないですね。
角田 自粛明けは要注意ですね。私も今日は気を付けないと(笑)。
吉田 緊急事態宣言の間、角田さんは家飲みですか。
角田 はい。私は同じ町に30年近く住んでいるのですが、馴染みの店がどこも店内での営業をやめて、テイクアウトのみに切り替わったので、家で飲むしかなくなりました。仕事を終えて、夜から夫と飲みはじめる。でも、2人とも自宅に籠って外部からのインプットがないから、段々話すこともなくなって……。最近はもういっしょに飲まなくなりました(笑)。私は飲みながらネットフリックスでドラマや映画ばかり見ていました。
二日酔いをしたことがない
角田 吉田さんが出演されている「吉田類の酒場放浪記」(BS‐TBS)では、全国の酒場の主人とリモート飲みをする様子が放映されてました。プライベートでも、リモートの飲み会はしていたんですか。
吉田 先日も新潟の俳句仲間と新潟県長岡市の銘酒「吉乃川」を飲みながらリモート句会をしたところです。番組の撮影のため仕事場に機材をそろえたのでZoomにもSkypeにも対応できるんですが、やっぱりリモートは少し寂しい。慣れないです。
角田 私もアナログなので、リモート飲みはやったことがないです。でも、ニュースを見ていると、流行っているみたいですね。そこまでしてもみんなで飲みたいんだと思うと、少し感動的です。
吉田 そうですね、でも、リモートでワイワイやるのもいいですけど、自宅で一人で飲むのも楽しい。ただ、自宅飲みは、ついつい酒量が多くなってしまう。
角田 はい。私は普段人と会うと緊張してしまって、しゃべるのが苦手なんですが、飲むと楽しくしゃべることができる。だから私の場合、人と会うために飲む感じなんです。でも自宅飲みは、お店の営業時間も終電も気にしなくていいから、ダラダラと際限なく飲んでしまいます。
吉田 僕も基本そうなんですが、今回のコロナ禍での自宅飲みでは、「断酒」よりも難しいといわれる「節酒」に成功したのですよ。
角田 ええ、すごい!
吉田 30種類の日本酒を飲んで、それぞれこの日本酒にはどんな料理が合うといった寸評を書く仕事を引き受けまして。1合瓶のお酒を1日6種類テイスティングすることにして、そのお酒についていろいろ書く。相当熱心にやりました。酔ってる暇もなかったですね。
神田「みますや」
角田 なるほど。とすると、1日6合でやめといた、と(笑)。
吉田 テイスティングだから飲む量は少しずつです(笑)。じっくり時間をかけて飲む。飲酒量は普段より相当少なかったはずですが、満足度は高かったですね。期せずして節酒になりました。
角田 普段そんなに飲んで、二日酔いは大丈夫ですか。私は、前はそれほどでもなかったんですけど、加齢とともにつらくなってきました。
吉田 僕は、いままで二日酔いをしたことがないんです。
角田 ええ〜、それはすごいですね! 羨ましいです。
吉田 これは体質だと思いますよ。内臓が強いんですかね。だからよく「二日酔いのうまい対処法」なんかを聞かれるんですけど、正直よくわからないんです。野菜たっぷりのミックスジュースを飲めばいいんじゃない、とか一応アドバイスはするんですけどね。
角田 適当ですね(笑)。
吉田 でも、僕にとっての究極の二日酔い対策は「迎え酒」ですね。人それぞれなのでお勧めはできませんけど。
角田 私には少しハードルが高いかも(笑)。二日酔いがないなら、どんなに飲んでも、朝はばっちり目が覚めるんですか。
吉田 そうです。僕は早起きで今日も朝4時に起きました。今日は〆切日だったので、午前中にコラムを1本書き上げてから来ました。
角田 素晴らしいです。私は普段は6時半に起きてますけど、外でお酒を飲んだ翌日は、どうしても起きるのが10時とかになってしまう。二日酔いがないと、そんなにも1日を有効利用できるんですね。
「おきゃく」と「はちきん」
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source : 文藝春秋 2020年8月号