2024年夏、KADOKAWAグループを襲った大規模なサイバー攻撃が日本で波紋を広げた。KADOKAWAは6月にグループ内のサーバーが身代金要求型ウイルス「ランサムウェア」を含むサイバー攻撃を受け、広範な事業が停止。同社は8月、25年3月期に36億円の特別損失を計上する見込みだと発表した。犯行声明を出したのは、ロシア系ハッカー集団「ブラックスーツ」。少数精鋭のハッカー集団が海を越えて日本企業に致命的な被害を及ぼす事態に衝撃が走ったが、欧州ではこうしたサイバー脅威は「日常茶飯事」だ。
「大惨事につながる攻撃がいつ起きてもおかしくはない。各国は絶えず喉元に冷たいナイフをロシアから突きつけられている気分だろう」
欧州在住のサイバー専門家が9月上旬、筆者にそう明かした。
ロイター通信によると、ドイツ情報機関の連邦憲法擁護庁は9月、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)諸国にサイバー攻撃を行っているとして、露軍参謀本部情報総局(GRU)下の「29155部隊」のグループに警告した。29155部隊は「殺し屋集団」(米メディア)と呼ばれる特殊工作部隊で、暗殺や西側諸国の不安定化を狙った活動を続けてきた。18年に英国南部でGRUのスクリパリ元大佐らが神経剤「ノビチョク」で襲撃された事件にも関与したとされる。ロシアは22年のウクライナ侵略以降、西側諸国と対立。政府機関や企業へのサイバー攻撃を強めている。独政府は24年、ロシアが物流や防衛、航空宇宙分野などにサイバー攻撃を行ったと批判した。
ロシアの攻撃に頭を悩ましたのが、24年7~9月にかけてパリ五輪・パラリンピックを開催したフランス政府だ。五輪・パラでは、国際オリンピック委員会(IOC)などが開会式でロシアと同盟国ベラルーシの選手の入場行進を認めない方針を決め、IOCとロシアは「冷戦状態」(仏紙)となった。IOCは3月、アフリカ連合高官を装ったロシアとみられる偽電話の被害に遭ったと発表。同月には、仏閣僚が、ロシアの偽情報でトコジラミ(南京虫)がフランスで大量発生したとの騒動が増幅されたと指摘。仏政府は五輪開催中にロシアのサイバー攻撃でパリの病院や交通機関がまひする事態を懸念した。
仏当局によると、五輪期間中に政府の事業者や通信インフラ、交通などを狙った140件以上のサイバー攻撃があったが、大会の運営に致命的な影響を与える攻撃はなかった。ただ、前述のサイバー専門家は「25年のドイツ総選挙など欧州では政治的なイベントが今後も予定される。欧州諸国の混乱を目論むロシアの新たな標的は次々と現れる」と断言する。
しかも、攻撃を仕掛けるのはロシアだけではない。独内務省は7月、21年に発生した連邦地図測地庁に対するサイバー攻撃について、中国政府の傘下のハッカーが関与したと非難した。機密情報の窃取が目的だった可能性が高い。独政府は、ロシアとの関係を強化する中国がスパイ活動のために欧州へのサイバー攻撃を実施しているとみる。北朝鮮やイランなども欧州諸国への攻撃を強めているとされる。
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