2022年11月22日、中国の習近平総書記(国家主席)は、北朝鮮の最高指導者・金正恩に対し10月の中国共産党大会への祝電の返礼電を送り、その中で「中朝関係を高度に重視する」と宣言した。また今後は単なる二国間関係の次元を越えて、広く世界の問題でも協力してゆきたいとの方針も明らかにした。
周知のように昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻以後、中露はこれまで以上に接近の度を強めているが、その一方で北朝鮮はかつてない頻度と規模のミサイル発射に踏み切っている。さらにウクライナでの戦闘で兵器不足に陥ったロシアに、北朝鮮が兵器や弾薬を供給しているとの報道がある。これに加えて、国連決議に違反する北の弾道ミサイル発射に対する安保理の制裁決議が、中露の足並みを揃えた拒否権の発動によって、否決されている。
2010年代に始まった米中の激しい対立を背景に、中露と中朝そして露朝三国の接近が進んでいたが、ウクライナ戦争によってその次元が深まり、今や異次元の緊密さに向かおうとしているのだ。
三国の緊密な関係は、日本の防衛・安全保障にかつてない重圧をもたらし始めている。昨年11月末、中露の爆撃機と戦闘機が共同飛行し日本の防空識別圏に進入したため、防衛省は空自戦闘機を緊急発進させた。中露の軍用機による日本周辺での共同飛行はこれで5回目だが、今回は中国の戦闘機が初めて合流した。日本に対する示威行動としては、恐らく戦後初めて、「実戦的な」ものになったとされた。日本周辺の海上における両国艦隊の合同演習はすでに“常態化”の兆しを見せている。
日本の安保専門家は、今や日本は対中、露、朝の「三正面」の対処が迫られている、と言い始めているが、彼らの見方は少しずれている。私の考えでは、これら三国の日本に及ぼす安保上の脅威は、戦略的にはむしろ「一正面」を成してきている。つまり、中露朝が一体化して日本に向かってきているという視点が、必要になってきているのだ。今後、中国が「台湾有事」を引き起こす際には、ほぼ同時に北朝鮮による対韓国の軍事行動が始まり、ロシアが日本の北方で日米への軍事圧力を増大させるといったシナリオが予想される。
実はこうした中露朝三国の“同盟的”接近の兆候は早くから浮上していた。2010年の秋、尖閣諸島付近で中国漁船が日本の巡視船と衝突し日中のかつてない深刻な外交紛争に発展したとき、ロシアのメドヴェージェフ大統領(当時)が突如、北方領土の国後島に上陸し、ソ連時代にもなかった重大な対日挑発行動に出た。そして同じ11月、北朝鮮軍が前触れもなく韓国領土の大延坪島の市街地に砲撃を加え犠牲者を出すに至った。私事で恐縮だが、すでにこの時点で、私はこの三国の同時的(シンクロ)行動に意識的連携の可能性を指摘し、月刊誌上で繰り返し注意を喚起した(『Voice』2011年1月号、同11月号および『WiLL』同2月号)。
三国間の相互不信
考えてみれば、これら三国はプーチンのロシアも含め、いずれも全体主義のイデオロギーを奉じ、そもそもの「出自」が共産主義インターナショナルの同志国として正式の同盟関係を結んでいた。またスターリンの主導下に韓国に侵攻し、米軍を中心とする国連軍に戦いを挑んだ過去を共有している。
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source : 文藝春秋 2023年2月号