「私はグループ代表に残ることにした」
2匹の蛙がいて、熱湯に1匹を放り込み、もう1匹は冷水に入れる。熱湯の蛙は慌ててそこから飛び出すが、冷水の蛙はそのままじっとしている。だが、少しずつ水を温めていくと、蛙は水温の上昇に気づかず命を落とす――。ビジネス界で好んで使われる「茹で蛙の法則」だ。来る6月の株主総会でフジ・メディア・ホールディングス(HD)の役員人事を一新し、自ら会長を退くと発表した日枝久は、開口いちばん、この「茹で蛙の法則」を例えに引き、こう話し始めた。
「われわれは仕事を進める上で茹で蛙になってはいけません。フジテレビは過去業界トップにいたが、気がつくと今年は5期連続の減収減益、(本体の営業)利益が40億円に落ち込んでいる有様です。このままでは死んでしまう。今ならギリギリ間に合うと今回の決断をしたのです」
「視聴率3冠王」と持て囃されたフジテレビの凋落が叫ばれて久しい。 かつて、6〜24時の「全日」、19〜22時の「ゴールデン」、19〜23時の「プライム」すべての時間帯で平均視聴率1位という「視聴率3冠」を通算19年も達成したフジは、2011年に日本テレビにその座を奪われて以来、再び浮かびあがることなく低迷している。
昨年は、年間視聴率が在京民放キー局5社中4位に落ち込み、純利益でテレビ東京に抜かれて最下位に転落するという体たらくだ。今年3月期はグループ総売上げこそ前年比2.1%増の6539億円と伸ばしたが、それを支えたのは都市開発事業、つまり不動産ビジネスで1025億円(前年比24%増)を売上げ、肝心の放送事業のそれは3127億円、と前年から2%ダウンした。
低迷の原因は諸説あるが、なかでもフジサンケイグループの代表として君臨してきた日枝久の責任を指摘する声が多い。日枝は88年から01年まで13年フジテレビの社長を務め、社長を退いて以降今にいたるまで、16年にわたって会長としてグループを率いてきた。実に29年間、マスメディアの頂点に立って組織を統べ、「フジテレビの天皇」と呼ばれる。御年79、今年傘寿を迎える。
5期連続の減収減益
業績不振に危機感を抱いたその日枝は4年前の13年、「踊る大捜査線」など数々のヒット番組を飛ばしてきた名プロデューサーの亀山千広を社長に据え、視聴率の回復を図ろうとした。だが、凋落に歯止めをかけるどころか、ますます危うくなっている。
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source : 文藝春秋 2017年07月号