習近平“異例の3期目”で何が起きているのか

一強なのに不安定

李 昊 東京大学大学院法学政治学研究科准教授
ニュース 国際 中国

 習近平の第3期政権は2025年に折り返し地点を迎え、ʼ27年の次回党大会に向けての水面下での準備がいよいよ始まる。ʼ12年の政権発足以来、習近平は鮮やかなお手並みで権力を確立してきた。改革・開放の時代以来、定着したように思われた集団指導体制、2期10年ごとの指導者世代交代などの慣習を次から次に打破し、異例の3期目にこぎつけた。もはや対立勢力はなく、挑戦者が現れる兆候もない。習近平の天下である。

 習近平政権の発足と同時に、その目玉となったのは反腐敗闘争であった。ʼ14年の周永康元政治局常務委員や、胡錦濤政権期の軍の制服組トップ2人(徐才厚、郭伯雄)の摘発は、第1期政権のハイライトとなった。しかし、誰の目にも明らかなように、この反腐敗闘争は一種の政治運動であった。華々しいキャンペーンの裏で、腐敗を防止するようなメカニズムが導入されることはなかった。

2024年の大晦日に放送された習近平のスピーチ ©AFP=時事

 第3期政権発足以来、すでに70人を超える高級幹部(日本の副大臣にあたるレベル以上)が摘発されている。特に軍内の摘発は激しく、すでに引退していた魏鳳和元国防部長、そしてʼ23年夏以来動向が不明となっていた李尚福前国防部長と連続2代の国防部長の党籍剥奪が決まった。習近平肝煎りで作ったロケット軍も、ʼ23年夏に司令員と政治委員が揃って更迭された。加えて、まだ正式な処分が下されていないものの、何らかの原因で全人代代表の職務を剥奪された軍幹部も10人近く確認されている。

 反腐敗闘争はすでに10年以上展開されているにもかかわらず、腐敗を撲滅することには何らつながっていない。摘発された幹部には、習近平が抜擢し重用した人物が数多く含まれている。習近平は何ら責任を取っておらず、また、何ら有効な対策を打ち出せていない。

謎多き人事とまだ見えぬ次世代

 第3期習近平政権の混乱ぶりを示すのは人事である。すでに第2期政権期から、慣習からの逸脱例が若干見られていたが、第3期に入るとますます予測不能な人事が繰り返されるようになった。

 党ナンバー2をも務める李強は、前例を破って上海市党委員会書記から直接国務院総理に昇進した。それまで副総理どころか、中央に勤めたこともなかった。党大会直後には、せめて半年だけでも副総理に就けて仕事に慣れさせるのではないかとも言われたが、それもなかった。経験不足が懸念されたが、総理としての仕事ぶりは習近平の陰に隠れて、海外メディアの話題にもさほど上らない。

 注目すべきは蔡奇である。蔡奇は第1期習近平政権期に大抜擢を受け、北京市党委員会書記まで上り詰めた(’17年5月の書記就任時には中央委員ですらなかった)。ʼ22年の党大会で最高指導部入りを果たしたが、驚くべきことに、翌年3月には党中央の日常業務を司る中央弁公庁主任の職を兼任していることが明らかになった。中央弁公庁主任は総書記の側近として地方視察や外遊に同行し、通常政治局委員か中央委員が務める。最高指導部メンバーが兼任するのは文化大革命直後以来だ。蔡奇は最高指導部内で、イデオロギー部門と組織部門という党内の最も強力な2つの部門を担当していると思われるが、その上日常業務をも牛耳ることとなった。異例の重用である。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : ノンフィクション出版 2025年の論点

genre : ニュース 国際 中国