2020年11月26日、恵比寿「ウェスティンホテル東京」にて、「COMPANY Forum 2020」が開催された。株式会社Works Human Intelligence(以下WHI)が主催するこのビジネスカンファレンスは、03年のローンチ後、おおよそ年1回のペースで行われてきたイベントだ。
✳︎
今回のテーマは〈Reinvent Values ~価値観を再創造せよ~〉。COVID-19感染拡大の影響を受け、従来のさまざまな価値観は根底から覆されつつある。事業のあり方や働き方、そして考え方はいかに変革されるべきなのか。その点にフォーカスを当てたスリリングで実り多いセッションが、リモート出演を行ったニューヨーク・ヤンキースGM特別アドバイザー/Matsui 55 Baseball Foundation代表理事の松井秀喜氏、ボン大学教授を務める哲学者のマルクス・ガブリエル氏など、世界中から豪華な講師陣を迎えて繰り広げられた。
まずは、WHI代表取締役社長最高経営責任者の安斎富太郎氏が登壇。人材管理・給与計算・勤怠管理からタレントマネジメントに至るまでを網羅した統合ソフトウェア「COMPANY」を提供する同社のビジネスを紹介しながら、コロナ以降に起きるであろう人事システムの変化、そして社会の変化に即応するプラットフォームを開発することで、同社の幅広い顧客に対する貢献度をさらに高めたいという決意を表明した。
COMPANY Special movieはこちら
数々のコンテンツの中でも特に注目を浴びたのが、三井物産株式会社代表取締役会長の飯島彰己氏による講演〈危機と変革〉。日本を牽引し続けるリーディングカンパニーを率いるトップの紡ぐ言葉は、リアリティと叡智に満ちていた。
三井物産株式会社代表取締役会長 飯島彰己氏
最初の話題は、20年6月に行われた同社の新社屋への移転に関して。社屋建て替えの計画がスタートしたのは、12年のこと。ほぼすべての部署でフリーアドレスを採用、そのデスク数も全社員数の7割ほどに絞る方針が立てられた。が、この先進的な働き方は、少しばかり時代を先取りしすぎているのではと危惧する声もあったという。しかし、コロナの感染拡大で状況は一変。新社屋における取り組みは、果たして情勢にマッチすることとなった。
コロナ危機で加速した世界の変化の象徴として、飯島会長が挙げたのがデジタライゼーションだ。90年代のIT革命から推進されてきたこの潮流が、このところのコロナ禍により著しく加速。脱コロナ後もニューノーマルとして定着すると目されている。ただし、デジタライゼーションの急激な進行に伴う形で、雇用の消失、プライバシーの侵害、セキュリティ面の危険性など、ネガティブな影響も指摘される。今後は、デジタライゼーションに関し、その恩恵の極大化とその弊害の抑制が課題になると語った。
次に触れたのは、世界にじわじわと迫る慢性的な危機。人類の歴史においては、その誕生から、誰かが得をすれば誰かが損をするゼロサムの状況が長らく続いた。その潮目を変えたのが、18世紀に起こった産業革命。それ以降、社会全体が豊かになるプラスサムの状況が始まったのだ。その後、帝国主義時代、東西冷戦時代を経て、プラスサムが世界へと浸透するグローバリゼーションの時代が到来した。が、経済の成長ペースの鈍化、気候変動問題の深刻化によって、世界はゼロサムへと逆戻りする危機にさらされている。米中対立やポピュリズムの台頭が、プラスサムの理念を揺るがしている影響も大きい。
この情勢において世界に求められる変革は、まず、公正なルールの構築。現実のゼロサム化に抵抗し、競争と協調の両輪を回していくことが必要だという。そのためのカギとなるのは社会資本としての「信頼」の醸成。人と人、企業と企業の間の信頼関係が国境を越えて無数に結ばれていけば、それが民意の形で各国の政治プロセスを動かし、国家間の交渉の場において、協調の実現の追い風になるだろうと語った。最後に、飯島会長は、三井物産における自らの経験を引き、危機こそが人材力を高めるのだと強調、熱弁を締めた。
続いては、この講演を受ける形で、飯島会長と「文藝春秋」の松井一晃編集長がトークセッションに臨んだ。
「文藝春秋」編集長 松井一晃(写真左)
実際に三井物産の新社屋に足を運んだ松井編集長は、日本のエスタブリッシュメントを代表する同社の職場環境が、まるで新興IT企業のように自由な雰囲気であったことに驚いたと告白。それに対し飯島会長は、「在宅勤務が主流になると、オフィスへ行くことはむしろ気分転換となる。だから、バランスボールやけん玉など、いろんな遊び道具を用意している」と意図を説明した。同社では、来客と会う時以外は、スニーカーやTシャツなど、ラフな服装での勤務が認められている。だが、会長自身は「お客様と会う機会が多いもので」という理由から、残念ながらカジュアル化には踏み切れていないと苦笑した。
「アメリカの政権交代が世界に与える影響は?」という松井編集長の問いに、飯島会長は「アメリカの自国第一主義は次第に修正され、同盟国との連携は強まるのではないか」と回答。ただし、三井物産としての立ち位置は、大統領がトランプ氏であろうとバイデン氏であろうと基本的に変わらないと明言。米中の対立に関しては、決してどちらか一方に与することはなく、各国の事業パートナーとウィンウィンの信頼関係を構築し、企業価値・株主価値を向上させることに努力したいと述べた。また、政治と経済が一体化している今、政・官・民・学のすべてが一体となり、首相自らがトップセールスを行う体制を整えてほしいとの希望も語った。
講演において飯島会長は、人材が鍛えられる機会を「修羅場・土壇場・正念場」と表現したが、このキャッチーな響きを気に入った松井編集長が「これからぜひ私にも使わせてください」と頼み込む一幕も。飯島会長からは、さらに「現地・現物・現場」に触れることが肝要だという名言も飛び出した。
最後は、やはり人間に興味を持ち、世代を問わず、出来る限り多くの人に会うことこそが大事であるという結論にたどり着き、2人は意気投合。経営にも編集にも通底する普遍的な真理に、会場とオンライン合わせて3,500人を超えるオーディエンスは大いなるヒントを得た様子であった。
主催企業:株式会社Works Human Intelligence
2020年11月26日 恵比寿「ウェスティンホテル東京」にて開催
source : 文藝春秋 メディア事業局