国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。
【ぴ】「ぴえん」なる新語 日本語の伝統にかなう
毎年末、私を含む国語辞典の作り手が集まって「今年の新語」(三省堂主催)を選びます。その年あたりに特によく使われ、かつまた、今後の辞書に採録されてもおかしくないことばを選ぶ、というのがこのイベントの趣旨です。
2020年の大賞は「ぴえん」に決まりました。「テストの点が悪かった、ぴえん」などと、小声で泣く様子を表します。19年あたりからSNSなどで非常によく使われるようになりました。
新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないとあって、候補には「ソーシャルディスタンス」「ステイホーム」「クラスター」など、コロナ関係のことばが多く入りました。でも、コロナ禍が終息した後、これらのコロナ関連語がなおも日常的に使われているとは考えられないし、考えたくない。辞書に載るであろうことばを選ぶ私たちとしては、「コロナ語」には低い点数をつけました。
一方、多くの選考委員が候補に推したのが「ぴえん」でした。大賞が決定するまで難航する年もありますが、今回に関してはすんなり決まりました。
「何が『ぴえん』だ、若者に媚(こ)びてるのか」という反応もありそうですが、私たちとしては大真面目です。このことばは、今までみんなが表現したくても表現できなかった気分を、うまく表すことができる擬音語なのです。
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source : 文藝春秋 2021年2月号