呼吸が苦しく、黒目が動かない。2度のワクチン接種後、いったい何が起きたか──。アメリカ・ニューヨーク在住のジャズピアニスト・大江千里さんが、自身の新型コロナワクチン接種体験を寄稿した。
大江氏
「これは効くな」
1月9日。僕は右手の肩の筋肉の間に出来た脂肪腫の治療について友人の医者に電話で相談していた。痛みは減ってきていたがセカンドオピニオンが欲しかった。彼はそれについての意見を僕に伝え、「それはそうとワクチンは打ちましたか?」と尋ねた。
コロナワクチンだ。彼の勤める病院では、医療従事者は全員ワクチンを受けたらしい。副反応が取りざたされていますが如何でしたか? そう単刀直入に尋ねると、「2回目の時は熱は出ましたがそんなにひどくはならなかった。それより……」。それより? 「長年の医者の勘ですが、体に入った時にこれは効くなっていう感覚がありましたね」。
科学の世界の最前線で生きる彼の口からこのフレーズを聞いた時僕は衝撃を受けた。NYにはいつワクチンが届くのか。ニュースでは配布の順番がフェイズ1、つまり、まだ65歳以上や医療関係者の段階で、僕たち健康成人まで回ってくるのはいつになることやら、といった感じだった。
電話を切るとたまたま手元のスマホが鳴った。NY市からのコロナワクチン開始と接種希望者募集のお知らせだった。スマホのショートメール(アメリカではテキストという)に602692を入れてCOVIDと入力すると市からコビッド関係のニュースが逐一送られてくる。
え? 用心深く開封すると「ワクチンに関する情報」が開示されていた。今話してたばかりだったので、すぐさまクリックしてサイトに入ると、いくつかの質問があり、それにYes/Noで答える形で進むと、モデルナ、ファイザーのワクチンの選択質問。予めモデルナにデフォルトでチェックが入っていたので、そのままにして進むと、日にちを選ぶページがあり、半信半疑で翌日の12時20分を指定したら予約が取れた。試しに12時半を開けると既に満杯。じゃあ12時は? 見ていくうちに、みるみる予約が埋まっていくのがわかった。本気で受けるのであれば今すぐやらないと取れなくなると直感で思い、僕は科学の力を信じる方へ足を踏み出した。
僕の職業はフェイズ1Aの医療関係者などではないし、年齢もまだ60歳なので、なぜ取れたのか本当の理由はわからないが、現実に受付を受理された。
会場となった小学校体育館(筆者提供)
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source : 文藝春秋 2021年4月号