デボラ・カー
©Ronald Grant Archive/Mary Evans/共同通信イメージズ
若いころ、私はデボラ・カーを冷たい眼で見ていた。最初に見たのが、『悲しみよこんにちは』(1958)だったことも一因だろうか。美貌の誉れ高い女優だが、このときは相手役が(というか、敵役が)ジーン・セバーグだった。
これはちょっと分が悪い。この映画の少しあとに『勝手にしやがれ』(1960)に主演したことからもわかるとおり、当時のセバーグは「とんがった」若手女優の先頭に立っていた。
映画の舞台はフレンチ・リヴィエラの保養地だ。妻に先立たれた裕福な遊び人の中年男レイモン(デヴィッド・ニーヴン)が、娘セシール(セバーグ)と別荘で夏の休暇を過ごしている。父の火遊び相手エルザ(ミレーヌ・ドモンジョ)も一緒だ。そこへ、亡妻の友人だったアンヌ(カー)が訪ねてくる。レイモンは、アンヌを後妻に迎えそうな気配だ。セシールはエルザを味方に引き入れ、アンヌを追い出そうとする。
こうなると、観客の心情はどうしてもセバーグ寄りになる。生意気で、おしゃれで、小悪魔的に狡猾なセバーグと、堅苦しくて融通が利かず、どこか道学者的な気配を漂わせる中年のカー。10代の私も例に漏れず、セバーグ側に立って映画を見た記憶がある。なのに……。
デボラ・カーは1921年、スコットランドのグラスゴーに生まれた。同世代の女優には、シド・チャリシーやジェーン・ラッセルがいる。初期の代表作は『老兵は死なず』(1943)や『黒水仙』(1947)だが、パウエル&プレスバーガー監督と初コンビを組んだ『老兵は死なず』が味わい深い。
この映画のカーは、ひとり3役を演じている。話の背骨は、英国軍人クライヴとドイツ軍将校テオの長い年月にわたる友情だ。カーは、ボーア戦争のあとには家庭教師イーディス、第1次大戦中には看護師のバーバラ、そして第2次大戦中には軍の運転手ジョニーを演じる。
なかでも印象的なのは、イーディスの役柄だろう。彼女はクライヴに思いを寄せられながら、その親友テオと結婚する。いわばある種の「宿命の女」だが、クライヴはイーディスの面影を追い求めつづけ、バーバラを妻に迎える。イーディスもバーバラも、ともに早逝する。
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source : 文藝春秋 2021年11月号