「お茶目な火炎放射器」千葉真一

スターは楽し 第184回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家
エンタメ 映画
スターは楽し_千葉真い
 
千葉真一

 千葉真一を飛行機のなかで見かけたことがある。1990年代の初めごろだったか、バハ・カリフォルニアのロスカボス空港からロサンジェルス行きのアラスカ航空機に乗り込んだところ、機体前部の6席しかないファーストクラスのひとつに、サニー・チバが腰を下ろしていたのだ。おや、という表情を私が浮かべたせいか、千葉真一は眼もとをちょっとゆるめてくれた。それだけの話だが、なぜか記憶に残っている。

 いまにして思うと、千葉真一は当時50代前半で、すでに活動の拠点をロサンジェルスに移していたはずだ。そんなに大柄ではなかったが、若々しく、全身から精気を発散させていた。

 私は幼いころから千葉真一を見ている。最初に見たのはテレビの〈新・七色仮面〉(1960)で、初代の七色仮面を演じた波島進に比べて顔の面積がずいぶん小さいな、と感じた覚えがある。軽業師のようなアクションに驚かされたのはいうまでもない。元体操選手と知って納得したが、これが彼のデビューになる。

 1939年生まれだから、当時の千葉はまだ20歳そこそこだった。60年代の劇場公開作で印象に残っているのは、日本と台湾の合作映画『カミカゼ野郎 真昼の決斗』(1966)だ。

 題名が示すとおり、乗物アクションが山盛りの映画で、車やモーターボートや小型飛行機を使った攻防戦が何度も繰り広げられる。千葉はまだ野暮ったいが、人柄のよさが全身から滲み出ていた。表情もお茶目で、仕草に愛嬌があった。監督は深作欣二。61年の〈風来坊探偵〉シリーズではじまった彼との縁は、のちの代表作『仁義なき戦い 広島死闘篇』(1973)へとつながっていく。

 そう、大友勝利のことだ。

 あれは凄まじかった。私は仰天した。狂犬というか、猛獣というか。初見から50年近く経ったいまでも、あの怪演を思い出すと、体温が少し上がる。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2021年10月号

genre : エンタメ 映画