文藝春秋digitalのオンライン対談イベント「東浩紀×先崎彰容『2022年の論点』人新世、ポリコレ、新しい資本主義、シラス…」が、2022年1月17日に開催されました。
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この日のゲストは、2010年に出版社「ゲンロン」を起業、2020年には放送プラットフォーム「シラス」をローンチし、新しい“知の観客”を創出し続けている哲学者の東浩紀さん。対談のホストを務めたのは、『文藝春秋』2022年2月号に論考「『人新世の〈資本論〉』に異議あり」を発表した先崎彰容さん。現代社会や現代思想について、対談では鋭い議論がいくつも交わされました。
著書『一般意志2.0』では、ルソーにさかのぼって現代日本の民主主義をとらえなおすことを試みた東さん。東さんはその仕事を経て「人間は家族なくしては生まれてこない。家族というものについて我々はもう一度考えなくてはいけない」という考えにたどりついたと言います。
「政治というものは本来的に友と敵を作るものであり、家族もまたそのように思われることが多い。しかし実際には、家族は友と敵をもっとも崩すものではないか。これは抽象的な話ではなくて、たとえば俺の村とあいつの村は敵だと思っていたら、実は血がつながっていたということもありうる。だから、家族という概念は友と敵を作るように見えて、友と敵を壊すものでもある」(東さん)
先崎さんは東さんの家族についての言葉を受けて、こう述べました。
「プラトンの時代から、“おひとりさま”という生き方を掲げる上野千鶴子氏に至るまでの長い歴史の中で、リベラル陣営は家族という枠組みは閉鎖的なものであり壊さなくてはならないと言ってきた。しかしそれは単純な見方でもある。家族をもう少し伸縮性のある概念としてとらえなおさなくてはならない。恐らく東さんは家族という概念から連帯をあらためて模索しようとされている」
家族の議論から、話はリベラル政党が組織づくりに失敗しているという話題へと移り、東さんは次のような意見を投げかけました。
「やはり政治というのはそれぞれの生活の実感に支えられているからこそ、投票にも議論にも意味があると思う。何かが正しいから投票するのではない。持続性をもって自分の生活環境から応援していけるような投票先を作ることが大事で、保守はちゃんとこれをやっているけど、本当はリベラルもそういう足場をしっかり作らなければだめだと思います」
先崎さんは、生活と政治の関係について、吉本隆明を引いて次のように語りました。
「魚屋は魚屋の論理で、大工は大工の論理で生きていて、その生活リズムから見てちょっとおかしいなと思う政治的発言があれば、それに対して拳をふりあげる。逆に、共産主義の運動についてこない嫁さんを罵倒して、生活を犠牲にしてでもお前は俺のために添い遂げろ、みたいなものはよくないと吉本は書いている。当時は左派でもそういうセンスを持っていたけれど、今の左派の人にはそういうものがない」
東さんと先崎さんの言葉に共通するのは、政治とは人々の生活と密につながっているのだという考え方でした。そのことをおざなりにする政治的運動に対する疑義が強く示されました。
対談ではほかにも、「家族」や「生活」といった身近な言葉を基調としながら、今日的な政治的連帯や、持続可能な組織論、そして東さんが運営する「シラス」というプラットフォームの社会的意義などについても深い議論が行われました。
私たちが生きる高度に発達した資本主義社会において、個人の人生や政治的つながりというものは、ともすると硬直化した希望のないものになりかねません。それを避けていくための処方箋としての考え方は、おふたりの対談のなかでいくつも提示されていたと言っていいでしょう。
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