不要な戦争に巻き込む米国から自立するために日本は核武装せよ
伊藤 今日はトッドさんと対談でき、大変光栄です。2002年刊の『帝国以後』で、トッドさんは米国の覇権主義の危険性を世界に警告しましたが、その後の事態はまさにその警告通りに進んでいます。私はずっとトッドさんの愛読者でした。
トッドさんの持論である「日本の核保有論」にも大賛成です。そして本日は、「アメリカ文明論」についてもぜひ議論したい。
トッドさんは『西洋の敗北』で、米国エリート層の「ナルシシズム」と「ニヒリズム」を指摘しています。私はワシントンで30年以上、米国政治を観察してきましたが、まさに図星です。最近の米国エリート層は、道徳規範の基盤を失ってカネとパワーの獲得に狂騒し、内政でも外交でも、落ち着いた政策を実行する思考力を失っています。
この「アメリカ文明の精神病」は、一過性のものではなく、トランプ後も続くでしょう。しかしより問題なのは、そうした米国に盲目的に追随してきた日本です。今後も米国にひたすらしがみついて生き延びようとするなら、日本は滅びると思います。
購買力平価で見ると、現在の中国のGDPは41兆ドルで、米国のGDPは31兆ドル。中国の製造業と重工業の生産力は、米国の少なくとも2倍もある。実質的な武器弾薬の製造力において、すでに中国が米国を凌駕しています。今後、2045年か2050年頃まで、米国と中国が熾烈な覇権争いをする環境にあって、日本政府の高官は、「米国にしがみついて生き延びる」という外交思考しか持っていない。
日本政府は、米国にひたすら依存する従属国として、「自由と民主主義を掲げる価値観外交」とか「法とルールに基づく統治」とか、米国人受けする外交スローガンを繰り返してきただけです。日本人が自ら考えぬいた国家戦略、いわゆる「グランド・ストラテジー」が構想できていない。「自らの国家のアイデンティティはこうだから、こういう外交政策をやる」という抽象的な思考能力が欠けているんです。

同じアジア人でも、インド人や中国人には、自らの国家戦略を考える能力があるのに、日本人にはそれがない。これこそ最も深刻な問題です。
トッドさんが「日本は核保有して独立しろ」と繰り返し忠告してくださるのも、「早く離米・脱米しないと、日本は滅びる」と確信しているからでしょう。しかし敗戦後の日本の護憲左翼・拝米保守・国粋右翼の三陣営には、グランド・ストラテジーの構想力がない。これこそ日本の最大の危機で、トッドさんと大いに議論したいです。

おすすめ記事
世界は終末を迎えているのか〈東京極秘対談〉
エマニュエル・トッド(歴史人口学者・家族人類学者)×ピーター・ティール(起業家・PayPal共同創業者)
ニヒリズムと暴力
トッド こちらこそ、伊藤さんと対談できて大変光栄です。私の本を丁寧に読んでいただき、感謝いたします。
『西洋の敗北』では、「宗教ゼロ状態」の帰結としての「プロテスタンティズムの崩壊」に米国の道徳的退廃の原因を見ています。教育を重視し、高いモラルを要求する宗教としてのプロテスタンティズムこそ、米国の強さと繁栄の源泉でした。そのプロテスタンティズムの崩壊で何が起きたか。教育水準の低下、モラルの崩壊、肉体労働からの逃避です。
しばしば経済学者は、「産業資本主義から金融資本主義への移行」を指摘しますが、私がむしろ歴史的現象として注目するのは、「産業活動の放棄」「肉体労働や手仕事からの逃避」それ自体で、これは「文明の衰退現象」とみなすべきです。
米国の政権幹部の言動も、「アメリカ文明の衰退」をまざまざと物語っています。一昨日、イラン攻撃に関するピート・ヘグセス国防長官の会見を見た時、あまりに下品で暴力的だったので、私は涙が出そうになりました。世界最強国家の指導者たちが、まるで「反文明的な野蛮さ」を代表し、人を殺すこと自体に快感を覚えているようだったからです。

「宗教ゼロ状態」の帰結の一つが、私が「ニヒリズム」と呼ぶもの、つまり「宗教的空白から生じる虚無の神格化」です。それが暴力、破壊への意志、戦争へとつながっている。
伊藤 「ニヒリズム」とは、トッドさんのご指摘の通り、「宗教を失うこと」でもありますが、私は「形而上的な価値規範を信じられなくなること」でもあると考えます。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
初回登録は初月300円・1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
電子版+雑誌プラン
18,000円一括払い・1年更新
1,500円/月
※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2026年5月号

