『人間』を考える

今月買った本

本上 まなみ 俳優・エッセイスト
エンタメ 読書

『どうぶつ会議』は北アフリカのチャド湖のほとりで、ライオン、ゾウ、キリンの3頭が、進展なくもの別れに終わったという人間たちの会議のニュースに辟易する場面から始まります。戦争、革命、ストライキ……繰り返される愚行で、飢饉や貧困などがいつまでもなくならない。自分たちも巻き込まれ迷惑しているけれど、一番かわいそうなのは、こんな大人に育てられる人間の子どもたち。もう見過ごしてはおけないと、ゾウのオスカーが立ち上がり仲間に声を掛け始めます。

 動物たちの、仲間や夫婦でのやりとり、子どもへの愛情のかけ方、会議に出席するため身支度を整える様子などが丁寧に描かれますが、誰のどの部分を切り取っても誠実で清潔な暮らしぶり。そこに著者の思いが見て取れる。私利私欲にまみれた人間との対比が際立っているのです。

 子どものころから『飛ぶ教室』『点子ちゃんとアントン』『エーミールと探偵たち』などの物語に親しんできましたが、いつも感じていたのはケストナーの、人間の良心を信じたい、信じようとする強い気持ち。本作が発表されてから70年以上経っても私たちが抱える課題の多くは解決に至らず、もどかしさは募るばかりです。平和を希求した著者の反戦のメッセージ。ヴァルター・トリアーの美しい挿絵も必見。

『人間は、いちばん変な動物である』は日本における動物行動学の先駆者、日髙敏隆氏最晩年の講義録。以前から日本エッセイスト・クラブ賞受賞作『春の数えかた』や『ネコの時間』などでその穏やかな易しい文章に魅了されていましたが、本書では“人間”とは一体どういう生きものなのかということが生物学、社会学的視点から語られます。戦争をやめられない人間とはいったいなんなのか? それをきちんと考えるために、人をテーマに講義をすることにしたそうですが、生物学になじみがなくても我がこととして捉えられる面白エピソードが多く、若い人、幼い人も興味を持って読めそうな内容です。

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source : 文藝春秋 2022年7月号

genre : エンタメ 読書