ロシアの暗黒史

今月買った本

手嶋 龍一 外交ジャーナリスト・作家
エンタメ ロシア 読書

 ウクライナで残虐な戦争を続けるプーチンにとって最大の権力基盤であるFSB(連邦保安庁)でいま異変が起きている。ロンドン・タイムズ紙はウクライナの諜報を担うFSB第五局の150人が職を解かれ、ベセダ局長は先々月自宅に軟禁された後、収監されたと報じた。短期でウクライナ制圧は可能だと分析したFSBの報告がプーチンの判断を誤らせたとして責任を問われたのだろう。

 情報コミュニティに精通するロンドン・タイムズ紙は、今回の追放劇を1930年代の惨劇にダブらせて“スターリン流の大粛清だ”と表現している。FSB局長が収監されたのは、その名を聞くだけで誰しも震えあがるレフォルトヴォ収容所だった。ベン・マッキンタイアーはノンフィクションの大作『ソーニャ、ゾルゲが愛した工作員』で、この悪名高い収容所を扱っている。20世紀最高のスパイと謳われるゾルゲに見いだされて赤軍の諜報員となり、30年代の上海、奉天で活躍した暗号名ソーニャことウルズラ・クチンスキー。彼女はスターリンの恐怖政治が沸点に達していたモスクワに呼び戻されたのだが、諜報組織の上司や同僚が毎日のように一人またひとりと消えていった。

 そのさなかにソーニャは初代国家元首を務めたカリーニンから赤旗勲章を受けたのだが、わずか1年後にはユダヤ人の彼の妻も逮捕されレフォルトヴォ収容所で拷問を受けている。スターリンは軍と情報機関の幹部ら154万人を捕らえ、68万人を処刑した。赤い諜報員は炎が燃えさかる煉獄のなかを生き延びたのだった。

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source : 文藝春秋 2022年6月号

genre : エンタメ ロシア 読書