北の党幹部はこう嘆息した。「我々はとんでもない奴に権力を持たせてしまった」
今春の平壌。日米などで「五月の戦勝記念日に金正恩第一書記がモスクワに外遊する」という観測がしきりに流れていた頃だった。一人の朝鮮労働党幹部が処刑された。理由は「最高指導者への反逆」。この幹部は、正恩が北朝鮮の生命線とも言える中国を疎(うと)んじ、ロシアに傾斜する姿勢に危機感を抱いていた。
正恩の反中の理由は極めて単純だった。昨年七月、習近平中国国家主席が北朝鮮を差し置き、訪韓したからだった。メンツをつぶされたと思い込んだ正恩は激怒し、中国の影響を徹底して排除するように指示。影響は朝鮮中央テレビで流れていた中国関係の番組の中止にまで及んだ。
こうした行動は心ある党幹部たちを憂えさせた。二〇一四年の中朝貿易額は約六十四億ドルで、第二位の南北貿易の三倍弱。中朝貿易は北朝鮮経済の「血液」とも言える存在だったからだ。核開発を巡る六者協議など安全保障問題での後ろ盾としての役割の大きさは言うまでも無い。
中国側も懸念し、四月にインドネシアで行われた国際会議で北朝鮮に接触し、「五月に正恩が訪ロするなら、そこで中朝首脳会談を開催したい」と伝えようとしたが、北朝鮮はこれもはねつけた。
意を決した幹部の一人が「中国とロシアとの等距離外交」を進言した。これはもともと金日成国家主席が採用した北朝鮮の基本ともいえる戦略で何ら問題ないはずだった。しかし、怒り狂った正恩は即刻、この幹部の処刑を命じたという。
平壌の朝鮮労働党幹部の一人はひそかにこう嘆息する。
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source : 文藝春秋 2015年07月号