ウクライナを荒し回る中国のヒトとカネ。追いつめられたのはロシアの方だった
「プーチンのクリミア編入を、EUやアメリカとの関係のみから見ていては一面的な理解に終わる。プーチンが国際的な批判や経済制裁を覚悟してクリミア編入を強行した背景には、中国への異常な警戒感があったことは間違いない。私は敢えて日本社会にこのことを伝えたい」
ロシア・プーチン大統領によるクリミアのロシア編入からちょうど一年が経った今年三月。私は、ウズベキスタン共和国の大統領選挙国際監視団の一員として、いまだ朝夕は零下の寒さのウズベキスタンにいた。その監視団に唯一ウクライナから参加していた国立科学アカデミーの局長が語りかけてきたのが、冒頭の言葉だ。
三月十五日、ロシア国営テレビが放映したドキュメンタリー番組「クリミア、祖国への道」でのプーチン大統領の発言が国際社会に衝撃を与えた直後だった。クリミア編入時、「(核戦力に戦闘態勢を取らせる)用意があった」という発言は欧米を牽制し、ロシアに編入されたクリミアがウクライナに復帰することはない、との意思表示だと解釈された。しかし、そうではない、とウクライナの研究者は言うのだ。
ここでクリミア編入までの経緯を振り返ってみたい。昨年二月二十二日、ウクライナの首都キエフや西部で起きた大規模デモによって親露派のヤヌコヴィチ政権が崩壊したことが発端だった。数日後、クリミアの中心都市シンフェロポリでは、ロシア軍の特殊部隊が議会や政府庁舎、空港を占拠し、ウクライナ軍施設も封鎖された。三月十六日、クリミア半島で編入の是非を問う「住民投票」が行われ、「九五%を超える賛成票」が投じられ、十八日、プーチン大統領がクリミア編入を宣言。プーチン大統領はクリミアの軍備増強を指示し、十一月にスホーイ30戦闘機や対空ミサイル「S300」が配備され、兵力も七兵団と八部隊を新設、今年四月からは新規徴兵も始まった。
連動するかのように、親ロシア派武装勢力「人民義勇軍」はウクライナ国境を超え、十カ月に及ぶウクライナ政府軍との戦闘の末、東部の約三分の一を奪取した。六千人以上の死者が出たという。海上輸送のみでは、クリミアの住民二百四十万人の生活を維持するには不十分で、東部ウクライナを制圧し、クリミアへの陸続きのライフラインを確保するのが狙いだ、との憶測が流れた。
前述のドキュメンタリー番組で、プーチン大統領は、昨年二月のヤヌコヴィチ政権崩壊の時点でクリミア編入を決断したことを明らかにした。これは、住民投票を正当化の根拠としてきた従前の主張を自ら覆したに等しい。つまり、住民投票は口実に過ぎず、初めから編入に動かざるを得なかった別の事情があったと推測されるのである。
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source : 文藝春秋 2015年06月号