活躍できなかった兵器はなぜ戦後、神話化されたのか
はじめに
一九四五年四月七日、戦艦大和は沖縄への特攻作戦中、数百機にのぼる米軍機の空襲を受け、あえなく撃沈された。戦争を通じて大和は戦果らしい戦果を挙げていない。それなのに、どうして私たちは大和のことを、あまりにもよく知っているのだろうか。
戦艦大和は、戦後日本人にとっての神であり、その悲劇的な最期は意図的に改変されたうえ、今日に至るまで神話化されている。なぜそうなったのか、一種の精神史のかたちをとりながら以下論じていきたい。
▶︎一九四〇・五〇年代
戦争中、戦艦大和の存在は極秘であったから、国民の大部分は大和について知ることはなかった。大和の存在は、戦後に刊行された雑誌などに旧海軍関係者が書いた文章を通じて、少しずつ知られていく。
興味深いことに、大和は当初、けっして現在のような賛美の対象ではなかった。例えば戦後も続いた海軍雑誌の『海と空』は大和とその性能について詳しく紹介し、その一八インチ主砲は結局何の戦果も挙げえなかったと述べ、「如何に造船技術は我が国の最高水準を本艦によつて誇示した処で、就役後その指揮官の巧拙、乗員訓練の良否、搭載公器の精度等が重大な関係をもつて艦の運命を左右するものである」(一九五六年一一月、「日本戦艦号」)と、辛辣だがごもっともとしか言いようのない批判をしている。
『海と空』は大和に対して「あまり誇大宣伝をして、後でだらしなく失つたより、暗から暗に葬つた方が世の物笑いにならなくてよかつたかも知れなかつた」(同)と、大和と運命を共にして死んだ将兵はどうなるのかと言いたくなるような批判もしている。これは、戦後に流布した「大和の建造時、無理に機密扱いせず公表すれば、対米抑止力となり開戦を回避できたのでは」という意見への反論であろうが、なすところなく敗れ日本を滅亡寸前まで追いこんだ旧海軍とその独善への批判ととらえた方がよかろう。
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source : 文藝春秋 2014年09月号