日本高等学校野球連盟(高野連)は2022年12月の理事会で、23年春以降からタイブレーク制度を10回から行うルール変更を決めた。
タイブレーク制度は延長試合に決着をつけるため、決まった回の頭から無死一、二塁に走者を置いてゲームを再開するルールだ。高校野球では18年春から導入され、延長12回で決着がつかない場合に採用されていた。今回の変更により延長突入と同時にタイブレークでの攻防が始まるが、この決定に異を唱える監督も少なくない。
野球ではまず無死一、二塁の得点チャンスを作ることが難しく、そこにチーム力の差が出ることが多い。高野連が10回からタイブレーク導入を決めたのは、13回からでは選手の負担軽減にはならず、実情は大会運営を円滑に進めるための制度でしかないと指摘があったからだ。今回の決定は、多少でも選手の健康に配慮したものだった。しかし無死一、二塁を無条件で作ると「運に左右されることが多くなる」と“勝負”からの視点での反対意見が、監督から多く出ているのだ。高校野球に根強く残る“勝利至上主義”の象徴的な出来事だと言えるだろう。
高校野球では「苦しさに耐えることが選手の成長につながる」という“教育理念”がいまだにある。選手がチームの勝利のために身を削ることが「美しい」と称賛されてきた。
もちろん選手にとって勝つことは1つの目標であり、喜びである。ただそれが唯一無二の目的となり、「腕が折れてもいい」「今日が最後の登板になってもいい」と故障を押してもマウンドに立ち続けたいと願う選手も出てくる。本来ならそこで事前にリスク回避をするのが大人の役割のはずだが、現実はそうとも限らない。むしろ親が必死になって子供の頑張りを求めてしまう。監督、コーチは肉体が限界に近い選手にも「いけるか?」と聞き「いけます」という答えを待つ。
勝つことが監督自身の実績と名声につながり、学校にとっては甲子園大会で勝てば全国的に知名度が上がり、生徒募集に絶大な力を発揮する。そしてメディアは売るために、限界に挑戦する選手の姿を「感動」として報道する。
監督の罵声が萎縮させる
高校野球が国民的イベントになればなるほど、こうした“勝利至上主義”がより強まる構造はなくならない。その結果、日本の少年野球や高校野球にどんな弊害をもたらすのか。その危険性を指摘するのは、メジャーリーグでもプレーする元DeNAの筒香嘉智選手だ。
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source : 文藝春秋 2023年2月号