アスリートにプレッシャーをかけないで

スポーツの光と影

大山 加奈 元バレーボール女子日本代表
エンタメ スポーツ
大山加奈氏

 アスリートのメンタルヘルス問題について発言するようになって5年ほどになります。私自身、現役時代は精神安定剤を手放せず、苦しさを抱え込んでいました。何に苦しんでいたかを一言で表すなら「プレッシャー」です。

 私は小学2年生でバレーボールを始めるまでは喘息持ちで体が弱く、かけっこはいつもビリになるほど運動が苦手で、おまけに引っ込み思案という、人から褒められた経験がほとんどないような子でした。

 ところがバレーを始めたら背があったので結果を出すことができ、それが大きな喜びとなって、小中高と全国一を達成することができました。17歳の時には日本代表のメンバー入りを果たします。

現役時の大山加奈氏(左) ©時事通信社

 初めて出場した2003年のワールドカップではスパイクを決めるたびに満員のお客さんがドッと沸き、選手冥利に尽きると感激しました。

 一方で、2004年のアテネ五輪出場を決めなくてはいけないという日本代表ならではの重圧がのしかかるようになります。まだ10代で代表メンバー中一番若かった栗原恵選手と私が「メグカナ」と称され、取材が集中する状況がそれに輪をかけました。自分が代表の座から陥落する不安も抱えつつ、こんな悩みは贅沢だと思って仲間にも家族にも言えず、孤立感は深まりました。

 アテネ五輪直前になると、視線が集まる場所に行くと動悸やめまい、大量の発汗といった症状が出るようになりました。翌年、国立スポーツ科学センターの医師にだけポロッと話すと、精神安定剤を処方されました。「大山さんだけじゃない。こういうアスリートはたくさんいるよ」と慰められたのを覚えています。

 当時のトレーニングルームは4階にあり、「ここから飛び降りたら楽になれるかな」と思うことがたびたびありました。手元の精神安定剤を見ては「これを一気に飲んだらどうなるだろう」とも。結局、26歳で競技から逃げるように引退しましたが、正直に言うと悔いが残る幕引きでした。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : エンタメ スポーツ