国際政治とビジネスは別物という時代は終わりを告げた。今や経済安全保障は米中対立の最重要テーマとなっている。長年、中国に投資しサプライチェーンを築いてきた日本企業は難しい決断を迫られている。
「バイデンは中国の心臓を正確に貫いた」。ある中国企業関係者がうなったのが米国の半導体規制だ。2022年後半に半導体輸出規制が一気に強化され、中国の半導体メーカーの先端設備導入を禁止したばかりか、先端半導体やスーパーコンピューター関連の輸出にも制限がかかった。従来は軍事関連企業向けだけが禁止対象だが、今回の規制では一定の性能を超えた製品について中国向けすべてが輸出禁止だ。「軍民融合」(民間企業の技術や資源の軍事利用を指す)が進むなか、ピンポイントの規制は不可能との判断だ。
中国企業のアリババグループは規制に該当しないよう、台湾に製造を委託している自社設計半導体の性能を意図的に低下させた。他にも基礎研究にAI(人工知能)を活用している大学では最先端半導体の購入ができないとの悲鳴があがる。中国側の危機感は強い。
再輸出規制と呼ばれるルールにより、米国の技術が一定以上使われた場合、第三国企業も対象となる。もちろん日本企業とて例外ではない。さらに日本政府自身が同様の規制を制定するべきだと、米政府が圧力をかけていることも見すごせない事実だ。
先端技術の輸出規制は今後、半導体以外にも広がる可能性が高い。2020年に米国政府は「死活的・新興技術国家戦略」を制定したが、バイオテクノロジー、農業技術、医療・公衆衛生、先端センシング、宇宙、ブロックチェーン、先端エンジニアリング素材など、広範な分野が死活的・新興技術に指定されている。必要となれば、これらにも規制が広がることになる。
逆に中国側が輸出規制をかけるパターンも考えられる。2020年に中国は輸出管理法を制定しているが、「報復措置」の規定が盛り込まれた。日本企業が米国の輸出規制に従い、中国向けの輸出をストップした場合の武器を用意したわけだ。
輸出規制以上に不安の的となっているのが台湾有事であろう。米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官が2027年までに「脅威が顕在化する」と発言したこと、さらにはロシアによる大規模なウクライナ侵攻という参照例ができたことによって、軍事力を肥大化させる中国が近い将来、台湾に攻め込むのではとの懸念が高まっている。いかに人民解放軍が力をつけたといっても、海峡を越えて台湾全島を攻略する能力はまだ有していないとの見方が一般的だ。それでも部分的な軍事力の行使など危険なシナリオの可能性は否定できない。多くの日本企業がロシアの資産を失ったように、台湾有事が起こればビジネスがすべて無に帰す可能性は高い。
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