英王室の“スペア”は、なぜ家族に弓を引いたのか
1月10日に16カ国語で発売されたヘンリー王子の回顧録『SPARE』の衝撃的な内容が波紋を広げています。出版前の本が流出せぬよう、警備に数億円がかけられ、厳戒態勢で発売日を迎えたこの本は、初日にイギリスだけで40万部、アメリカとカナダを合わせた3カ国でなんと140万部を売り上げるという、ノンフィクション本としては史上最速のミリオンセラーを達成しました。
400ページを超える大作で、王子と妻のメーガンの2人には、出版印税の前金として約26億円が支払われたと言われています。昨年12月のNetflixのドキュメンタリー『ハリー&メーガン』への出演では、Netflixから195億円もの収入を得たと報じられましたが、英国では「“王室批判ビジネス”で生活している」と揶揄されています。
実際、本書の中身は、暴露に次ぐ暴露というべきものでした。と言っても、王子自身が書いたのではなく、ゴーストライターによる代筆です。筆を執ったのはピューリッツァー賞作家のJ・R・モーリンガー氏で、彼は本書を手掛けたことで1億円以上の原稿料を手にしたといいますから、これまた豪儀な話です。
ただ驚いてばかりもいられません。この本が王室に与えたダメージは小さくなく、出版後にイギリス国内で行われた王室の好感度調査では、本書で批判の対象となった兄・ウィリアム皇太子がもっとも数字を落とし8ポイントダウンの61%に。ヘンリー王子も7ポイント下げ、23%になりました(英調査会社「イプソス・モリ」調べ)。ヘンリー王子の“捨て身”の作戦に、王室は完全に巻き込まれてしまったのです。
「かわいいスペアちゃん」
本書はまだ日本語版が出版されていませんので、内容をくわしく紹介する必要があるでしょう。まず、「予備(spare)」を意味するタイトルに象徴されるように、この本は“王家の次男”という立場に生まれたヘンリー王子の、兄夫婦への嫉妬や王室への愛憎、家族を失った悲しみや苦しみ、憤りで溢れています。
ただ、スペアというとネガティヴな印象ばかりを抱く読者も多いと思いますが、ニュアンスは少し異なります。イギリスの階級社会には「heir and spare(後継者と予備)」という古くからの言い回しがあり、むしろ後継者と同様にスペアという存在の重要性を認識する風潮があるのです。階級社会のトップである王室においては、称号やそれに伴う広大な領地と財産を絶やすことなく継いでいかなければなりません。万が一にも戦争や病気などで後継者が亡くなり、家系が途絶えることになってはいけない。エリザベス女王ですら、ヘンリー王子のことを「かわいいスペアちゃん」と呼んでいたのです。
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source : 文藝春秋 2023年3月号