海底の謎に迫る

日本再生 第53回

立花 隆 ジャーナリスト
ニュース 社会 テレビ・ラジオ

 八月二十三日のNHKスペシャル「新島誕生 西之島――大地創成の謎に迫る」は大変面白いドキュメンタリーだった。一昨年十一月、小笠原の父島付近で、小さな海底火山が火を噴いた。そのあたりの海域は富士火山帯に属するから、それまでも海底火山が火を噴くことがあった。海底火山というのは、普通の人が考える以上に数が多い。火山は陸上でも海底でも同じように沢山存在し、同じようによく噴火している。ちがいは、大陸地殻(厚さ十~七十キロ)に比較して海洋地殻が圧倒的に薄い(厚さ六~七キロ)こと。そのためマグマは海底火山のほうが、外にもれ出やすい。地殻はこの地球を卵の殻のように取りかこんでいるわけだが薄皮の海洋底の部分がときどき破れて、マグマが外に噴きだすことがある。それによって海洋底は一貫して拡大してきた。地球の歴史は海洋底拡大の歴史といわれるのはこの意味だ。

 さて、私の年代の人ならみな鮮明に覚えていることに、明神礁の大爆発という事件がある。一九五二年伊豆諸島の南端青ヶ島をさらに南に七十キロ下ったところにあった岩礁が大爆発を起して、付近にいた海上保安庁測量船第五海洋丸を丸ごと破壊した。犠牲者は三十一名に及んだ。この岩礁は発見者にちなんで明神礁と呼ばれている。明神礁の付近の岩礁群は、幕末期にフランスの軍艦ベヨネーズが発見したことで、ベヨネーズ列岩と呼ばれているが、これは全体として巨大なカルデラをなしていることで知られる海底火山群である。この明神礁と、西之島は、同じ富士火山帯に属し、直線距離で五百キロ程度しか離れていない。二〇一一年の東日本大震災以後、日本の火山活動があちこちで妙に活性化し、これは下手をすると、江戸時代(宝永四=一七〇七年)以来噴火の記録が途絶えている富士山の噴火につながるのではないかとの声が折にふれてはささやかれるようになった。そういう状況の中で、とりわけ注目を浴びるようになったのが、富士山と同じ火山帯に属して、最近特に活動を活発化させている西之島だ。普通海底火山は噴火しても、放っておけば、自然鎮火して、やがて海中に没して消えてなくなるものである(稀にいくつかの海底火山は生き残って火山島になる)。たとえば、明神礁にしても、何度か小爆発をくり返し、一時は百メートル×百五十メートル、高さ三十メートルの小さな島のような形状を持つところまで育ったが、最終的には荒波にもまれるうちに、単なる岩礁として海中に没し去ることになった。それに対して、西之島新島は、生まれてから一年半以上経つというのに、いまもまだ噴火をつづけ、島として成長をつづけている。すでに直径が二キロメートル、高さ百四十メートルの島になり、動物、鳥類、魚類が沢山住み着いた生命あふれる立派な島になっている。

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source : 文藝春秋 2015年10月号

genre : ニュース 社会 テレビ・ラジオ