著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、土屋賢二さん(お茶の水女子大学名誉教授)です。
父とわたしが似ている点は、軽率なところとギャンブル好きなところだ。株で何度も全財産を失い、商売で挽回しては全財産を失うことを繰り返していた。わたしには「株には絶対に手を出すな」と何度も忠告し、自分ももうやめたと言いながら、死ぬまでやめなかった。
わたしと似ていない点は、父が人並み外れた働き者だったという点だ。一番に起き、夜遅くまで育児と家事と商売に一人で奮闘していた。当時はご飯を炊くのはかまど、風呂を沸かすのは薪、こたつは炭や練炭だから、手間も半端ではなかったが、一ミリも手を抜かなかった。
母は箏を教えていることを理由に、家事や育児には一切関わらなかったが、父は母の世話をするのも全力投球だった。母が出来たてのご飯でないと嫌がったため、炊き立てのご飯は母が食べ、子どもと父は冷やご飯だった。
朝は母と子ども二人を起こし、布団を上げ、朝食を取らせ、母を駅まで自転車で送ると、子ども二人を学校まで自転車で運んだ。母が弁当にバラ寿司がほしいと言えば、早朝、魚市場で魚を買い、酢飯を作り、中に入れる具に一つ一つ違う味付けをしていた。
これでよく商売をする暇があったと思う。何度も商売を変えていたから、うまくいっていなかったのかもしれない。
父の教育は厳しいの一言だった。五歳のころ痩せているという理由で引っ叩かれ、小学校の入学式では校長の話を聞いていなかったとして校舎の裏で殴られた。
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source : 文藝春秋 2023年7月号