ヴィオラ母さんは濃く生きた

エンタメ 音楽

「もっと生きててほしかった」とは思いません

 昨年の12月30日、母リョウコこと山崎量子が、89歳で永眠しました。

 みなさんが、「マリさん、今は辛いだろうけど」と気遣ってくださるのですが、不思議と悲しんだり落ち込んだりがありません。「後から寂しくなるよ」と言われたりもしますが、未だにその気配もなし。ただ、数年前に母から受け取った、四つ葉のクローバー入りの手紙を見つけた時は、愛情表現の下手な人だっただけに、少しだけ切なくなりました。

 母は毎朝、愛犬であるゴールデンレトリバーの散歩をしながら、草むらの中に四つ葉のクローバーを見つけるのが得意でした。それをいつも嬉しそうに自慢していましたが、そんな彼女の楽しげな少女のような側面を思い出しても、悲しみより温かい気持ちが込み上げてきます。

 母に対して私の中にある思いは、人生を生き切ったことへの労いと感謝に尽きると言っていいでしょう。

 完全に「規格外」の母親だったリョウコについて、私は以前『ヴィオラ母さん』(小社刊)という本に詳しく書きました。ヴィオラ奏者として活躍する傍ら、多くの生徒さんにヴァイオリンを教え、大好きな音楽の道になりふり構わず邁進したリョウコ。シングルマザーとして2人の娘を抱えながら、開拓者のように自力で人生を切り拓いてきた彼女は、本にでも書いてまとめないと私の中で収拾がつかない存在でした。

『ヴィオラ母さん』(小社刊)

離婚した夫の母と暮らす

 1933年に神奈川県の鵠沼で生まれたリョウコは、裕福な両親から宝物のように育てられますが、60年、27歳のときに勤めていた会計事務所を辞め、勘当同然に実家を飛び出しました。札幌交響楽団(札響)の創設に女性第一号メンバーとして参加、新天地・北海道に単身移住したのです。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2023年8月号

genre : エンタメ 音楽