無料公開

【イベントレポート】組織・人材・価値向上のAs-Is/To-Be

■企画趣旨

“As is(現状)”から“To Be(目指すべき姿)”への変革は、組織が現状の課題を理解し、将来の目標や理想の状態を明確に定義するプロセスのことを指します。変革を実現していくためにはいくつかのアプローチ方法が考えられますが、現状と目指すべき姿の間に存在するギャップの改善に頭を悩ます企業が多く存在しています。

<埋めなければならないギャップ例>
◆文化と価値観のギャップ ◆スキルや知識、人材の不足 ◆プロセスおよびシステムの適応 ◆組織構造の適応 ◆経営と従業員の意識 ◆予算とリソース

デジタルテクノロジーの進化やビジネス環境の変化は不可避であり、組織が変化に対応し、進化するためには、現状を正確に把握し、それに基づいて未来をデザインすることが不可欠です。そのためには「As is(現状)To Be(目指すべき姿)」を分析する過程において、経営層から従業員まで全社員に参加を促し、変革のビジョンや目標が共有され、変化に対する共通の理解を築いていくことが重要となります。また、進捗状況を定量的および定性的に評価し、必要に応じて戦略やプロセスをアジャイルに改善していくことも求められています。

本カンファレンスでは、組織・人材・価値向上の「As-Is/To-Be」に焦点を当て、ギャップを埋めるためのアプローチ方法について、実践者やプロフェッショナルの講演を通じ、考察をした。


■基調講演

企業変革と対話ー組織の慢性疾患を乗り越えるー

埼玉大学 准教授
『組織が変わる』著者
宇田川 元一氏

経営学者。専門は、経営戦略論、組織論。
早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、長崎大学経済学部講師・准教授、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より現職。対話を基盤とした企業変革、イノベーション推進を研究している。また、大手企業やスタートアップ企業の企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。

現代の企業変革を考えるにあたっては、緊急を要する“急性”と共にセルフケアを通じた「慢性疾患」の寛解にもフォーカスしたい。企業は人を育て、事業を育て、たゆまぬ変革を長期にわたって積み重ねることが必要だ。

企業変革で取り組むべき4つの論点は以下。(1)全社戦略を考えられるようになる(2)全社戦略へのコンセンサスの形成 (3)部門における戦略と変革施策の実行(4)戦略や変革施策のアップデートである。

経営層~部門長・コーポレート~各部門で(1)~(4)のスパイラルを回していかなければならない。そうすれば、全社戦略・事業戦略や新規事業・事業変革などを考えられるようになり、戦略・変革施策へのコンセンサス取りや部門間の共働が進められるようになり、自発的な取り組みや変革ニーズの先回りが実行できるようになる。

とはいえ、市場との長年の関係の固定化は、企業の事業戦略を狭小化させる。構造的無能化である。新たな市場・顧客からのフィードバックチャネルの構築が戦略転換の鍵だ。また、分業化の進展は環境や生じた問題を狭いスコープでしか捉えられない構造的慣性を生み、ルーティンの確立は、今は大きな問題が起きていないので今のやり方でよいはず、という認知的慣性を生む。組織の断片化を改められずに無能化が進むのである。ちなみに、現場任せでは組織への“横串”など絶対に通らない。

狭い市場や業務スコープ/何が課題かよくわからない/実は全社戦略や事業戦略を誰も考えられない/バラバラに頑張るので疲れるが成果が出ない――このように構造的無能化した組織を変革するには、「日常の違和感」を入り口にすることだ。

日常の違和感から戦略的課題への対話的な掘り下げを行いたい。例えばエンゲージメントが低かったとして、そもそもエンゲージメントの数字が上がれば良いのだろうか? 表層的な問題と背後の複雑な問題、その二重性を考え、問題を反転させてコントロールを取り戻したい。中期経営計画と現実に大きな壁があったとする。表面に表れてくる問題を掘り下げると見えてくるその問題を生み出している問題の構図が見え、戦略的課題も見えてくる。それらを見極めて戦略の軌道修正へつなげたい。

米国の鉄道会社は、輸送を目的と考えず鉄道を目的として考えた。つまり顧客中心ではなく製品中心として考えてしまい、衰退した。事業の定義を間違えたのは、顧客を媒介にして、自分たちの活動を捉え直すことがなかったから。他者の視点を媒介にして己を捉え直し、新たなつながりを構築すること=対話すること。これこそが変革の源泉である。

他者を媒介として己を量り直す(文化人類学者・山口昌男氏)のである。先述してきた変革が進まない例のほとんどは、対話という思考の運動がないために生じている。人事部門、経営企画部門、事業部門、そして経営者。万人にとって、変革するためには対話的思考運動とその実践が大切だ。変革をするということは対話することであり、対話することは経営をすることなのだ。

 短時間で一気に変革を遂げることは難しいが、次の世代につなげるためにも少しずつ変革を進めたい。「遭遇する全ての状況が天から人への問いかけである。それに対する応答の連続が、即ち私たちの人生そのものである。」と、パキスタンで医療活動を行うペシャワール会代表だった中村哲氏は言っている。対話を進め、一つずつ困難を乗り越えていった先に、必ず何か次の世代に引き継ぐべきものが見えてくる。理想と希望を持って、日々変革に取り組みたい。

■課題解決講演(1)

人的資本から紐解く 組織変革成功のカギとなる
従業員のスキル管理と人事データ活用

株式会社SmartHR
タレントマネジメント事業 事業責任者
重松 裕三氏

慶應義塾大学商学部卒業後、コンシューマー向けプロダクトを開発する企業で、プロダクトマネージャーとして新規事業の立ち上げを複数手掛けつつ、組織内最大チームのマネジメントを担う。2019年、SmartHRに入社し、プロダクトマーケティングマネージャーとしてクラウド人事労務ソフト「SmartHR」の機能開発に貢献。人事情報を活用し組織の力を向上させるサービスの企画開発も担当し、「従業員サーベイ」「人事評価」「配置シミュレーション」などの機能を担当。現在はタレントマネジメント事業を統括。

◎人的資本とは/人的資本開示の目的

人的資本(無形資産)とは、従業員がもつ、スキル/知識/ノウハウ/資質であり、新たに企業が投資し企業価値に還元すべき領域だ。2023年3月決算から、企業の有価証券報告書等に「人的資本、多様性に関する開示」が義務づけられた。

特に、独自性のある指標(自社固有の人的資本への投資や人材戦略を表現した他社と比較しづらい指標)と、比較可能性のある指標(女性管理職比率や男女間賃金格差、男性育児休業取得率など他社比較できる指標)の開示が求められている。

売れ続ける商品やサービスは少なくなっている。顧客ニーズや技術の変化が早く、競争が熾烈であることが要因だ。そんな状況で製品や戦略ではなく“人・組織”が差別化の重要な要素になってきている。事業成長を望む投資家も「人材投資」を最重要視している。人的資本「開示」は上場企業の話だが、人的資本「経営」はどの企業にも重要だ。

例えば、丸井グループは移動後のアンケートで調査した成長実感を開示している。本田技研工業も、他社との差別化につながる重要テーマとして人的資本経営を推進していることや現状と目標を統合報告書に明示している。事業戦略達成のために人材に投資することこそが人的資本経営であり、人材に投資するためには現状と目標のギャップの把握が重要だ。

「スキル」とは、業務を遂行できる力+客観的な裏付け。スキル情報が把握できていないと戦略的な人員配置・育成が困難だ。スキル管理によって現状を把握し、個と事業の成長に繋げたい。

◎人材育成のステップ/SmartHRを利用した人事データ活用

(1)管理したいスキル項目の洗い出し(2)スキル管理体制の構築(3)スキルを収集し必要なスキル(To Be)と現状(As is)のギャップを可視化(4)ギャップを埋めるための人員配置の実施。これが人材育成のステップだ。

現場など社内を巻き込み、基準を決めて「スキルマスター」を作成し、スキル情報の管理・収集フローも一元化するなど整備したい。人が成長する要素の7割は業務経験、2割が助言、1割は研修だ(ロミンガーの法則による)。経験を積むことが可能となる人員配置が、人材開発に効果的な施策となる。スキルの不足や偏りを確認して効果的な人員配置と人材育成を実現したい。

SmartHRは、必要なデータが自然と集まる仕組みにより、「人事データをいつでも活用できる」状態を作り出せる。収集・管理から活用までのプロセスを一気通貫で実現。蓄積した人事データをすぐに見える化でき、データ同期と簡単な設定だけでレポートを作成可能。また、登録された従業員へのエンゲージメントサーベイを始め、さまざまなアンケートにより人的資本の把握に活用できる。独自性のある指標・目標ほか、人的資本開示にも役立てることが可能だ。

SmartHR利用で、「従業員のスキル」を効率的にデータ管理&可視化できる。スキルマップ、シミュレーションツールなどがあり、柔軟なマスタ設定により各社独自のスキル項目を管理し、スキル情報を見ながら直感的に配置検討ができる。なお、従業員一人ひとりのあらゆる情報をまとめて確認できるキャリア台帳機能を新たに24年に2月にリリースした。

 ■特別講演(1)

「日本発の」グローバル組織における
人と組織のマネジメントについて

アステラス製薬株式会社
代表取締役副社長 人事・コンプライアンス担当
杉田 勝好氏

1967年生まれ。京都大学を卒業後、91年に旭化成に入社。以降、ジョンソン・エンド・ジョンソンや日本ヒルティを経て、2012年からアストラゼネカ執行役員人事総務本部長、16年から日本マイクロソフト執行役員常務人事本部長。21年5月にアステラス製薬に入社し、人事部門長に就任。23年6月より現職。

前提として当社の働く環境を紹介する。当社は、ほとんどの組織が地域軸ではなくグローバルな機能組織だ。勤務形態・勤務場所ともにフルリモートな職場環境(研究や製造、営業等、現場での勤務が必要な職種を除く)。日本だけの施策や一部の地域だけの施策は最小限で、基本的にはグローバルに統一された施策を展開している。

2021-25年度の中期経営計画には「組織健全性目標」を組み込んでいる。イノベーションの促進、人材の活躍、コラボレーションの浸透が相まって、意欲的な目標の実現を目指す企業文化を醸成し、アステラスの実行力を格段に上げていく、と標榜している。

経営計画を実現するための環境とカルチャーを整えたいと考えている。具体的には組織文化、マインドセットの変革/グローバルな人材・組織を支える人事制度の構築/イノベーティブな組織への戦略的改革/データに基づいた確実な進捗トラッキング、だ。

◎課題への取り組み

グローバルな人材・組織を支える人事制度の構築にあたっては、ここ3年ほどで、目標管理・評価精度/報酬・レコグニション/グレード制度の統一/人事システム(HR CONNECT)のグローバル統合などを行った。意欲的な目標設定、自身が居心地いいと感じる(達成可能と感じる)範囲を超える、勇気を持った目標設定を意識した。

全役員(CXO)の個人目標は、全社の目標やゴールと明確にリンクしている。CXO同士が共通の目標を持っていることは、全従業員に共有している。組織のフラット化には丁寧に取り組んだ。CEOから数える階層数を減らし、組織をフラット化することで迅速な意志決定を促進し、イノベーションを生み出す組織にする。例えば階層数は原則6階層以下を目指しており、24年3月には92%がそうなる見込みだ。

多様な人材登用を促進するサクセッションプランニングをグローバル展開し、後継者育成にもきちんと取り組んでいる。特徴は、グローバル共通のプロセスやフレームを用いた完全なグローバルプラン/社外人材も後継者候補に含み、自分のドリームチームを作る/完全な自由競争・面接の上で実際の配置を決定/部門長は毎年全員をレビューし、スクラッチで適所適材を実現、の4つ。社内公募制度による人材流動性促進も行っている。HRは経営計画実現に向けて必要なリーダーシップ・モデルを提言・導入し、岡村CEOのもと「世界は変化しています アステラスはその先を目指します」という「People Vision」を作成している。

グローバル・エンゲージメント・サーベイを行い、スコアに加えコメントをAI解析することで、より詳細に前回からの進捗、強み弱みを分析している。ちなみに私たちの強みは、差別がない/誠実さ/目的意識、と出ている。サーベイ分析の結果、会議の参加人数や時間を減らすといった変革もなされている。

当社はさまざまな変革のただ中にあるが、変革の究極的なターゲットはピープルマネジャーだと思う。先述のPeople Visionの下、ピープルマネジャーのケーパビリティ強化に焦点をあて、カルチャー変革を推進したい。人事担当はあくまで黒衣。「あそこの会社はリーダーやピープルマネジャーが育っているし、人材の開発も上手だよね」といった評判が出てこそ本当の“プロ人事”だと思う。

■課題解決講演(2)

As-Is /To-Beのギャップを埋める人材戦略の描き方
~ 高難易度な経営戦略を実現するためのエンゲージメント活用法 ~

株式会社リンクアンドモチベーション
組織開発本部 企画室 マネジャー
山中 麻衣氏

2009年入社。大手企業向け組織人事コンサルティングを経験した後、ブランド・マーケティングコンサルティング担当として企業の商品サービスのリブランディングに従事。 また、グループ全体の経営企画に携わり、M&Aや経営統合後の子会社の経営管理の体制構築を経験。その後、国内最大級のデータベースを持つ組織改善クラウドサービス「モチベーションクラウド」のマーケティング責任者として、立ち上げ当初からの拡大を牽引。現在は、上記の経験を活かし、新サービスの事業企画、経営企画を担当。

◎人的資本経営の実践における人材戦略の重要性と3つのポイント

人的資本経営は「理解⇒共感⇒実践」とフェーズが変化しており、情報開示が義務化された2023年以降、企業は人的資本経営の「実践」が求められている。『人材版伊藤レポート』で示された3P・5Fモデルのように、経営戦略と連動させ、As is-To beのギャップを埋め、文化を醸成できるような良い「人材戦略」をいかに描けるかが、人的資本経営実践の鍵となる。

人材戦略を描く際は、(1)目的設定や(2)現状把握、(3)施策立案に気をつけることが重要だ。

  1. 目的設定においては、「長期」で描き、「企業成果」と接続させることが大切である。企業が長期で目指す姿から逆算して短・中期目標を設定し、その目標達成に対する人材戦略のインパクトを可視化したい。
  2. 現状把握においては、人・組織の状態を「可視化」し、「最適解」を設計し、実行することが大切である。組織状態を可視化するモノサシが「従業員エンゲージメント」=企業と従業員の相互理解・相思相愛度合い(会社への愛着や、仕事への情熱の度合い)だ。エンゲージメントの向上は、労働生産性/営業利益率/ROE/PBRそれぞれの向上をもたらすという調査結果がある

当社の組織改善サービス「モチベーションクラウド」には国内最大級の1万1360社、403万人以上のデータが蓄積されている。エンゲージメントを構成する16領域の項目を「期待度」「満足度」の2軸で診断し、エンゲージメントを高めるための課題を可視化できる。

組織へのエンゲージメントを左右する要因はPhilosophy(目標の魅力)/Profession(活動の魅力)/People(組織の魅力)/Privilege(待遇の魅力)の“4P”に分類できる。
 

事業特性や経営特性に応じて、組織として高めるべき魅力は異なる。また、エンゲージメント状態によって、実行できる戦略は異なる。そのため、さまざまな情報や事例を鵜呑みにし、そのまま自社の施策や打ち手に流用するのは避けたい。

  1. 施策立案においては、「全施策」を連動させ、「感情」に寄り添いながら取り組むことが大切である。組織を変えるための操作変数は、Mission(役割設計)/Membering(人材開発)/Monitoring(管理制度)であり、これらすべてを連動させることが大事だ。また、人間は変革を嫌うので、解凍(相互不信を解く・期待感を醸成する)⇒変化(共感を引き出す・納得感を醸成する)⇒再凍結(仕組み化する・変化を実感させる)の3ステップで態度変容を促したい。

立案した各種施策を推進していく際にも、エンゲージメント状態の定期的な確認が欠かせない。人材戦略の描き方は、以下のスライドにまとめている。常にエンゲージメント状態を把握し、都度最適な打ち手へ変更していくことが重要だ。

■課題解決講演(3)

経営の想いと情報浸透がもたらす、
組織と個人のポテンシャル最大化

株式会社ヤプリ
取締役執行役員 COO
山本 崇博氏

2019年、株式会社ヤプリにCMOとして入社。2023年より同社COOに就任。セールス・マーケティング両部門を統括。それ以前は、外資系広告代理店、ゲーム会社にて広告・販売促進・PRを経験。また、(株)アイ・エム・ジェイ(現アクセンチュア)では、執行役員として、マーケティングコンサルティング部門を牽引。製造、通信、放送、流通、教育、金融など多業種に渡るクライアントを支援。

スマートフォンに入れるアプリというと、店舗・ECで活用し顧客エンゲージメント向上に寄与するツールという印象があると思う。しかし近年は、従業員向けに活用し組織エンゲージメントを高めている企業が増加している。

当社はHR Teck試乗の組織エンゲージメント領域を「社内アプリで、組織をひとつに。」を標榜する「yappli UNITE」でカバーしている。コンサルティングだけでなく、テクノロジーやプラットフォームを使って効率的に支援するソリューション/サービスだ。

働き方の多様化が進む中で、情報の浸透・共感に課題を持っている企業は多い。組織エンゲージメント(造語)は組織と社員との関係を示す指標。組織と社員が相互に信頼できる関係性を構築することは重要だ。

組織エンゲージメントが高まっていると、従業員が自己効力感を感じる/前向きに仕事に取り組める/仕事の意義を感じる/新しいことにチャレンジできる/成長を感じる/この組織で何かできると思う、といった意識を持つようになり、結果として売上などのビジネス指標にも良いインパクトを与える。

組織エンゲージメント強化に重要な4つの視点は、理念・ビジョンの浸透/業務効率化/成長機会の提供/カルチャー醸成。これらは担当部署が分かれていて、伝達が断片化していることが多い。これらを連結しストーリーとして見せていくためにアプリは有用だ。

導入企業には、他部署の仕事を知り、キャリアについて考えるきっかけに/各種情報を集約し探す手間を省いて業務効率が向上/販売スタッフの95%が自主的にアプリを利用/QRコード交換によって活発な交流の促進/リアルとアプリを融合、オフィスでの会話のきっかけに/ワークショップ後でもアプリで振り返れる環境を提供、といった効用がもたらされている。※三菱UFJ信託銀行、サワライズ、オルビス、ヤプリ(自社)の事例紹介あり

社内ポイントを付与し、福利厚生などに利用することも可能だ。また、台風、雪などの悪天候の日に会社からプッシュ型メッセージを送ることや、緊急時の安否確認もできる。閲覧状況などアプリ内の行動も管理画面から把握でき、サーベイ・分析で組織の状態を把握することも可能である。Appli UNITEは、アクション計測の両方の領域をカバーする。
 

ノーコードで、運用しながら成長できるアプリが実現。さまざまなモジュールを用意しているのでスピーディーにアプリ構築ができる。理念・ビジョンの浸透/業務効率化/成長機会の提供/カルチャー醸成のために活用いただければ幸いだ。

■特別講演(2)

“As-Is/To-Be”- 食文化創造集団に向け逆算された人材戦略
~ 財務部長経験者が描く、人事部門のあるべき姿 ~ 

日清食品ホールディングス株式会社
執行役員・CHRO
正木 茂氏

1993年、新卒で日清食品株式会社に入社。経理課にて「簿記入門」からキャリアを開始。入社4年目で米国ゴールデンゲート大学に社費留学し、会計学修士を取得。財務部・人事部を経て再び渡米し、米国日清にてCFOとして勤務。帰国後、基幹業務システム刷新プロジェクトリーダーとして、40年来のメインフレーム時代からSAPへの移行を牽引。2018年に財務経理部長に就任、翌年人事部長へ異動。21年4月CHRO、22年4月執行役員に就任。

◎いっそう儲ける いっそう儲け続ける!

例えば会社の価値はどう計算するか。DCF(Discounted Cash Flow)法では、会社が未来永劫儲かり続ける、という驚きの前提のもとに計算される。比較的見えやすい儲ける力と、見えにくい儲け続ける力、いずれの力も高め続けないと企業価値は高まっていかない。

人事部の前に経理を担当した経験から話すと、企業のビジネスがやっていることは、「カネ⇒モノ⇒モノ……モノ⇒カネ」の変換連鎖だ。効率の良い資産回転と、利益率の高い商品/販売が、儲かる仕組みの要諦であり、社員は「カネ⇒モノ⇒モノ……」のコンバージョンを行っている。現金を土地、建物、機械、資材に⇒資材を製品に⇒製品を売掛金に⇒売掛金を現金に、という流れだ。そして企業は「社員は儲けるためのコンバージョンコスト(人件費・労務費)」として考えてきた。

しかし、企業価値を高めるには、下図の縦軸方向に延ばす=いっそう儲けること/横軸方向に延ばす=いっそう儲け続けることを行い、四角形の面積を拡大しなければならない。社員が一様の“優秀さ”を持つことを求めるのではなく、各エリアごとに求められる優秀さを定義し、それらを獲得・構築・維持・向上することが人事機能のミッションだ。

現在の顧客とのビジネスによる企業価値に、深化と探索によって獲得する将来の顧客とのビジネスによる企業価値を加えるためにも、「適所に、適材を」配置しなければならない。企業価値向上に資する優秀な人材にどう集まってもらい、育て、とどまって活躍してもらうかを先を見据えて考え、人事施策に落としこまなければならない。

◎人事は薬剤師さんであろう!

当社のCMやSNS、統合報告書などでの情報発信、マーケティング戦略は非常にユニークだ。食堂、研修、入社、カップヌードルミュージアム、業務功績表彰、朝礼・職場ミーティング、社内報、社内大学……すべてが面白く個性的。

じつはこれら社内の施策群は、態度のABCモデル=Affect:感情/Behavior:行動/Cognition:認知、にグルーピングされる。大人になると“分かる、できる”ようになるため、Cばかりになってくるが、当社にはAやBに属する心ゆさぶる施策も多数ある。会社の中のさまざまな施策=ぶどうの一粒一粒が「房」になるイメージだ。

このぶどうの房が生産性向上につながっている。企業理念への共感とワーク・エンゲージメントが高まり、創造的思考プロセスができるようになれば主体的なプロアクティブ行動につながり、生産性が高まる。ゆえに人事のアプローチとして、企業理念への共感をもたらすABCモデルを活用しているのだ。

ワーク・エンゲージメント(私と仕事の関係)、従業員エンゲージメント(私と仕事・組織の関係)には、じつは何が効いているのかわからないし、何に効いているのかわからない。全員に効く万能薬はないので、人によって効くクスリを出し分けていく人事でありたい。先人が積み重ねてきた考えや研究を学び、さらに発展させて次の何かを発見する=「巨人の肩に乗る」ことで、人事施策のぶどう一粒が房になる。

経営に資するため、ステークホルダーへ説明できるために以下を心がけたい。「相関」ではなく「因果」で/KKD(勘・経験・度胸)ではなく、理論で/いっそう儲かる、いっそう儲かり続ける、のビジョンがあるか?
経験学習サイクルが回り、成長を促すためには、「フィードバック」「リフレクション(内省)」がとても有効だ。まず私自身に対しても「Good」で入り、「Motto」こうしたら……という助言をいただければ幸いだ。

■特別講演(2)

高校野球本来のあるべき姿を取り戻す
~ ティーチングからコーチングへ ~

慶應義塾高等学校
野球部監督
森林 貴彦氏

慶應義塾高校野球部監督。慶應義塾幼稚舎教諭。1973年生まれ。慶應義塾大学卒。大学では慶應義塾高校の大学生コーチを務める。卒業後、NTT勤務を経て、指導者を志し筑波大学大学院にてコーチングを学ぶ。慶應義塾幼稚舎教員をしながら、慶應義塾高校コーチ、助監督を経て、2015年8月から同校監督に就任。23年夏の甲子園では107年ぶりの全国制覇を果たす。

「KEIO 日本一」「野球力で日本一 人間力でも日本一」という目標を掲げてやってきた。目的は「恩返し&常識を覆す」。「ウチが優勝したら高校野球は変わるよ」と生徒には言ってきて、夏の甲子園で優勝して、変化の芽は出てきていると思う。

「Enjoy Baseball」とは「より高いレベルの野球を愉しもう!」と捉えている。地道な練習の連続、試行錯誤、切磋琢磨、怪我や故障等のプロセスも含めて愉しむのがKEIO野球の神髄だ。高校野球界(スポーツ界)の現状は、まだまだ勝利至上主義。勝つことが全て。勝てば“名将”、負けたら何も評価されない。勝つために手段を選ばなくなる、しかも育成年代で……。

個人の成長、チームの成長を第一に考える。それが最終的にはチームの勝利につながると考えている。スポーツ界や企業、日本社会にまだ残っている古い体質や価値観は改め、高校野球界に風穴を開けたい。高校野球やスポーツをこれまでの「勝ちを追求」(勝利至上主義)から、人生100年を豊かにする「価値も追求」に改めたい。

高校野球が人生のピークではいけない。卒業後80年の人生に向けた貴重な3年間で、スポーツマンシップ/レジリエンス/インテグリティー/自分で考える習慣/多様性、など沢山の経験や学びを得てほしい。

◎指導者としての信念

野球の試合になぞらえて掲げれば、以下のスライドのような指導者としての信念を持っている。

抜粋して紹介すると、まず「自分で考える」。野球は自分のもの、フォームも自分のもの。自分で考えて、追究してほしい。それを手伝うのが指導者の役割だ。自分で考えるところにやりがいが生じる。野球は自分で考えない選手を大量生産していないだろうか? 自分にとっての幸せは自分で追求する時代だ。自分で考え、選び、実行できる人になってほしい。

「任せて、信じ、待ち、許す」。高校生も大人もみな未熟であり失敗はする。失敗と書いて、経験と読む。ティーチングとコーチングのバランスは難しい。成長の邪魔をしていないか、教えるリスクを自覚しているか、黙って見守る勇気を持っているか……。育ちやすい環境作り、組織作りのために、技術屋よりも経営者の視点が必要だ。

「独自の視点を持つ」。会社勤務~小学校の担任と多様な経験を積んだ自分ならではの特徴・視点は、高校生を大人扱いできるところ。体力、理解力、思考力といった大人としての長所と、一所懸命、最後まで諦めない、疲れ知らずといった子どもとしての長所。双方を引き出す指導を心がけている。

「フラットな組織を築く」。部員と監督という「役割」が違うだけと認識する。飛行機も機長一人では飛ばせない。メンバーそれぞれが役割を全うすることが大切だ。目標・目的を共有し、お互いをリスペクトし、心理的安全性を高め、コミュニケーションを深めるようにしたい。

「練習や準備が試験、試合は答え合わせ」。昨夏の大会時には、ホテルの地下駐車場を借りてウェイトトレーニングをやったり、宴会場で相手投手の映像を見てのイメージトレーニング、素振りなどを行った。事前の準備が全てであり、答え合わせの時に緊張しても仕方がない。「伝えたいことを絞る」。大事なのは発する量ではなく伝わった量。四字熟語など短い言葉に思いを込めている。

「質を追求する」。練習の価値=質×量。練習量を拠り所にするチームは多いが、慶應は質(集中力や目的意識)で勝負! 素振り1000本より実戦をイメージした100本、を意識している。「指導者も選手も日々成長」。向上心を持って、成長する自分を楽しみたい。現状維持は衰退と同義語だ。成長する努力をしない指導者は退場。指導者も経営者もマネジメント層も向上心を持ち、常に成長を心がけたい。

2024年1月31日(水) 会場対面・オンラインLIVE配信のハイブリッド開催

source : 文藝春秋 メディア事業局