■企画趣旨
ROIC(Return on Invested Capital,投下資本利益率)は、企業の投資された資本に対する収益性を示す重要な経営指標の一つです。2020年7月に策定された経済産業省の「事業再編実務指針」で、ROICが事業ごとの資本収益性を測る最重要指標として位置づけられて以降、ROICを経営上の重要指標に採用する企業が増えました。また、23年3月、東京証券取引所は、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」を発表し、資本収益性の指標として、ROICとROE(自己資本利益率)の重視を示唆したことで、その動きはますます加速しています。
こうした中、企業価値向上・企業価値創造のためにROICを活用する経営、「ROIC経営」を実践する企業に投資家は熱い視線を注ぎ始めています。ROICは理論的に非常に優れた指標であり、ROICとオーガニック成長率(およびWACC)が企業価値を規定します。一方で、現実の使用に際しては注意も必要です。計測の問題、単年度指標としての問題等があり、また、ROICは必ず成長性の指標とセットで用いないと、かえって企業価値向上を阻害するリスクにもなりえます。
2022年8月、2023年5月、10月の開催に続く、第4弾の開催となる本カンファレンスでは「付加価値の高い、稼ぐ事業を見極めよ。投資家が重んじる事業成長の本質」テーマに、「ROIC経営」の本質を理解し、活用する場合の留意点、投資家との建設的な対話や経営における迅速な意思決定の実現など、先行企業の取り組みなどを検証し、経営課題解決のインサイトを考察した。
■基調講演
ROIC 経営の視点で成長と稼ぐ力を高める
~ 企業価値創造の実現に向けて乗り越えるべき課題 ~
早稲田大学大学院 経営管理研究科
教授
佐藤 克宏氏
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。スタンフォード大学大学院修士課程修了。京都大学経営管理大学院博士後期課程修了(博士、経営科学)。日本開発銀行(現 日本政策投資銀行)、マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナー等を歴任。早稲田ビジネススクールで教鞭を執るとともに、企業への経営アドバイスも行っている。
◎企業価値を創造する経営
業界構造/競争環境/自社をそれぞれ戦略の視点、ファイナンスの視点両方で分析し、戦略の徹底した実行とROIC>WACC※を意識して企業価値の創造・向上を目指す。それが“企業価値を創造する経営”の要諦だ。
※ROIC=Return On Invested Capital 投下資本利益率 WACC=Weighted Average Cost of Capital 加重平均資本コスト
経営者は、投資家としての視点と、事業家としての視点の二つを持たなければならない。大前提はROIC>WACCである。投資家としての経営者は、キャッシュを産むまさにそのことにしっかりと意を払うべきだ。そして事業の根幹である戦略=ミッション、ビジョン、バリュー、全社戦略、事業戦略・機能戦略を有機的に結びつける事業家としての経営も行う必要がある。
企業価値の創造にあたっては、成長することと稼ぐ力(ROICなどで測る)双方が重要だ。PBR(株式時価総額÷自己資本)1倍割れ回避・向上も、成長することと稼ぐ力を高めることにしっかり取り組むことで自ずと解決されていく。例えば、味の素の統合報告書には成長と稼ぐ力にこだわる全社戦略、企業価値向上のための方策と目標が明確に示されている。
◎成長とは/稼ぐ力とは
全社戦略のもと、最適な資源配分(ヒト・モノ・カネ・スキル)を行い、成長・稼ぐ力を高めてパーパスやミッション・ビジョンの近い将来の実現に向けて進まなければならない。たゆまぬ改善を続ける従来の延長線上の経営や、それに近い“事業戦略”も大切だが、大きな舵取りを行い成長につなげる全社戦略の立案と遂行は重要だ。
成長の源泉、成長に寄与するものは、成長する市場へのポジショニング(自社の事業が対象としている市場自体の成長に乗って売上高が増加)と、M&Aによる売上の増加だ。成長する市場に身を置く経営ができているかどうか、確認する必要がある。人口増や、脱炭素化/農業・食糧/新興国/都市化/ヘルスケアといったグローバル・メガトレンドが作用してくる市場をきちんと捉える舵取りができているか、考えなければならない。
改善だけではなく、自社なりにグローバル・メガトレンドを捉え、経営の志や自社の根源的な強み(技術、スキル等)を生かして成長のための事業機会を獲得することが大切だ。例えば富士フイルムや日立製作所は、そうした“大きく舵を切る”こと、強みを活かした新たな事業化ができている。
そして稼ぐ力。本日のテーマであるROICが大きく関わってくる。PL・BS一体型思考=ROICについては下記スライドにまとめた。
改めて、税引き後営業利益÷投下資本=ROICとは、投資家から付託されたどれだけの元手を使ってどれだけのリターンを出したのか?元手対比事業からのリターンである。“正しい会社の稼ぐ力の測り方”なのだ。日産自動車やオムロンはROICをいち早く活用して決算報告などで公表しつつ実績を上げてきている。
ファイナンスの視点と戦略の視点の双方から分析する「ROICツリー分解」は有用なツールである。ROICツリー分解、分析にあたっては、競合にはもちろん海外の企業もベンチマークに入れること。社外・社内双方の視点からの分析を通じて、どのあたりに稼ぐ力の課題があるのかが明らかになってくる。
◎セルフチェックによる成長と稼ぐ力の向上
冒頭でも触れた業界構造/競争環境/自社を分析し、キャッシュフローや企業価値についての将来シナリオを描き、戦略および戦略施策(ROICなどの目標設定や組織スキルを構築を含む)を考えて企業価値向上につなげるための「セルフ・デューディリジェンス」も重要である。
成長と稼ぐ力を確認するには、売上高成長率を縦軸に、税引き後ROICスプレッドを横軸にとったグラフで見ると良い。また、売上高成長率を縦軸に、WACCとROICを横軸に取った事業ポートフォリオのマッピングも中長期的に自社の事業をどうするかを考えるための分析に有用だ。企業価値創造に向けて成長と稼ぐ力を考えるにあたっては、短期的にはROICツリー分解、中長期的にはポートフォリオ・マッピングを使うといいだろう。
本日のまとめ。
・企業価値の源泉は「成長」と「稼ぐ力」
・ROIC経営による稼ぐ力とメガトレンドを捉えた成長を両立
・ROIC経営は概念理解から徹底した実行のフェーズへ!
■特別講演(1)
J.フロント リテイリングのROIC経営
~ 事業別ROICに基づくポートフォリオマネジメント ~
J.フロント リテイリング株式会社
取締役兼執行役常務 財務戦略統括部長
若林 勇人氏
1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。経理・財務畑を歩み、2013年コーポレート戦略本部 財務・IRグループゼネラルマネージャー 兼 財務戦略チームリーダー(理事)就任。15年J.フロント リテイリングに入社し、業務統括部付財務政策担当。18年より現職。一般社団法人日本CFO協会理事。
当社のグループビジョンは「くらしの『あたらしい幸せ』を発明する。」。企業戦略・事業戦略とサステナビリティ経営を一体化し、強みを活かしたCSV※を実践、新たな価値創造を通じたWell-being Lifeの実現を目指している。
※Creating Shared Value 共通価値の創造
1990年代後半から、最大のお客様満足を最小のコストで実現/売上至上主義から利益重視の経営への転換、の二つを改革の目的とし、営業/外商/後方部門/人事の4つの改革を一体的に推進し、生産性の高い百貨店の業務オペレーション確立に努めてきた。百貨店から「複数の小売り業態を展開するグループ」に変わって成長を目指す=事業ポートフォリオ変革にあたり、利益重視から「資本収益性」を意識した経営管理が課題であった。
私が着任した2015年度当初はP/L中心の経営管理で「株主資本コスト」を上回るリターンを期待している投資家の皆さんとの間に大きな意識の乖離があった。そのため、まずはB/Sや資本コストなどの「資本効率性」重視への意識改革に取り組んだ。そのプロセスとして、当社が認識する資本コストを設定/成長戦略による利益創出/事業ポートフォリオ変革による資本コストの低減により、ROE目標の達成に向けた取り組みを明示した。さらに事業会社はROAの最大化、持ち株会社(HD)は財務戦略推進と役割を明確化し、株主資本コストを上回るROE水準8%の達成を経営目標として開示したのである。
従来のP/L重視の経営から脱却すべく、百貨店店舗別B/Sを導入(17年度~)。ROE>株主資本コストの継続的な超過がPBR/PER水準の上昇にも繋がると認識して改革を進め、業績や株価の回復に伴って23年度末にはROEは8%を、PBRは1倍を超過した。
◎2030年に向けた経営管理の高度化
小売り事業に加え、不動産や決済・金融など「非小売り事業」への領域拡大=事業ポートフォリオ変革にあたり、非小売り事業の収益性管理を強化するため、21年度からはROICを採用した。2030年度まで継続的に、株主資本コストを上回るROEとWACCを上回るROIC水準を確保することを目指している。
事業特性の観点から同業他社をベンチマークし、事業別(セグメント別)にWACCを算定。事業別ROICの中長期目標は事業別WACCを超過する水準で設定している。リテールの深化とグループシナジーの進化に向けた戦略・成長投資を推進する一方、成長性と収益性に基づく投資管理の徹底により、ROIC目標の達成を目指している。
また、事業別の将来B/Sも算定。例えば百貨店、ショッピングセンターは過去からの蓄積資本(自己資本)を有効活用し、不動産や決済・金融は有利子負債を大きく活用する想定し、コントロールしている。グループ各社の自己資本額の適正化にも取り組んでいる。また、24~26年度累計で成長投資枠500億円の活用により、将来の成長への解像度を上げていく。ここでもROICを基軸とした収益を伴う成長の考え方に基づき判断をしていく。
ROICを基軸においた経営管理においては、事業ポートフォリオ管理(HD目線)に加え投資管理を厳格化する(HD、事業家会社目線)。また、事業部門と連携しROICツリー/KPIを設定し業績管理に活用する(事業会社目線)。グループ内にROICが浸透することが企業価値の向上につながると考え、ROICを基軸に置いた経営管理を進めている。また、ROIC向上施策によりフリーキャッシュフローの最大化を図りROEの向上も実現させる。
事業ポートフォリオ管理については4象限を記した以下のスライド参照。このように重点投資領域を規定する。
投資管理の厳格化について、繰り返しになるが投資判断に際しては計画上の平均ROICがWACCを上回ることを確認する。モニタリング時にはP/Lに加えてROICも管理、投資判断においては成長性に加え収益性・効率性を考慮する。
◎事業会社マネジメントの強化/企業価値を高めるCFOの役割
当社は、投資計画検討委員会を設置し投資管理強化に取り組んでいる。大型投資に対する定量的な投資判断基準の設定や運用ルールを策定し、意志決定前に損益計画を検証・判断。昨今はノウハウの蓄積と法務メンバーの参画などで、審議は更に高度化している。
事業・資産の見極めも定期的に行っている。グループの各事業を「3フェーズ」に分類、定期的に見直しを行う。再生・撤退検討事業についてはHDが主導して再生計画を策定する。
不確実性の高い環境の中、HDではリスク管理を強化している。複数シナリオに基づき事業会社を含めたマネジメントを徹底。HD主導で資産・事業の見極めなど、ワースト・シナリオを立案している。一方、HDでは政策保有株式の縮減にも取り組む。
CFO・財務部門に求められる役割は大きく変化してきた。今後は「攻めの領域」に取り組む、専門性を持った「戦略家」が求められる。CFOは守りの領域である決算・税務、会計・資金オペレーションに加えて、攻めの領域である戦略立案・遂行(現状分析・計画策定)やIR/投資家対応(開示)という機能・役割も担う。CFOが機能と役割を果たすための体制づくりも重要で、当社では執行が現状分析に基づく計画を策定・開示し、投資家との対話を通じて資本コストと株価を意識した取組みを実行。一方、取締役会は執行計画を承認し、取組み状況をモニタリングし結果検証を行い、双方が適切に役割を果たすことで企業価値を高めていく。
最後に仕事への思いと個人への思いを以下のスライドに。
■特別講演(2)
部分最適から全体最適の経営へ
~ 中長期的に企業価値を創造/向上させ続ける実践ROICマネジメント ~
日戸興史事務所 代表
元オムロン 取締役専務執行役員 CFO兼 グローバル戦略本部長
日戸 興史氏
元オムロン 取締役専務執行役員 CFO 兼 グローバル戦略本部長。1983年立石電機(現オムロン)入社。エンジニア、技術企画を担当。1996年から4年間シリコンバレー駐在。2006年オムロンヘルスケア経営統括部長、14年オムロン(株)取締役執行役員常務、17年CFO就任。23年6月 退任。現在はワコールホールディングス社外取締役、日本CFO協会理事を務めるとともに、これまでの経験を活かして要請があった企業の業績向上取り組みや経営者/CFOへのアドバイス、コンサルタントを行い、日本企業の発展をサポートしよりよい社会の実現に貢献していきたいと考え活動をしている。
◎ROICマネジメントとは?
東京証券取引所は2023年に、プライム市場及びスタンダード市場の全上場会社を対象に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請を実施した。上場各社においてROIC/ROE>資本コストの実現は急務であり、出来なければ存在意義を問われることになる。
ROICマネジメントは、外部プレッシャーにより受身でやっても上手くいかない。ROIC経営は手段にすぎず、それを通じて何のために何を実現するのかの明確化が重要だ。経営陣ではその目的は明確になっていても社員は理解しておらず浸透していない、といったことはないだろうか?
“ROIC向上の施策”および“資本コストを中心としたWACC低減の施策”を実行することでROIC/WACCスプレッドを最大化させ、企業価値向上を実現することが重要である。私は目指すべきROIC水準は10%超だと考えている。ROICはビジネスモデルが違う事業にもフェアに適用できる。各事業のROICを高めることで、全社ROICを高めたい。
ROIC経営つまり利益を稼ぐことは、社会的存在の企業としてのベースであり、起点だ。稼いだキャッシュを循環させることで、あらゆるステークホルダーWIN-WIN-WIN関係の構築が可能となる。結果としてその企業の価値が世の中から認められて、存続可能性を高めることができる。
投資の多くは年金基金から出ているお金、つまり私たち自身のお金であり、未来の生活を支えるものでもある。キャッシュを循環させ、よりよい社会の実現に近づけたい。実現したい姿は、ROICマネジメントを起点とした課題再生産のスパイラルアップである。
ROIC経営はトップから現場まで共有で腹落ちし、合意をして進めることが極めて重要だ。事業部門から本社スタッフ(理財中心)まで協力・連動した取り組みにする。でないと、結果として活動に魂が入らず対処療法、部分最適の仕事となり、成果が出ずに尻すぼみとなる。下記の認識をしておく必要がある。
・収益性の低い事業は結果としてよりより社会づくりに十分に貢献できていない
・真によりよい社会づくりに貢献でき、ステークホルダーから認められていれば対価として収益はついてくる
・世の中に真に必要とされ、会社/事業の役割が重要と認められているのに収益が伴っていないのなら、それはやり方がまずいだけであり、収益は必ず向上できる
・世の中に必要とされているが自社では十分な投資ができない、運営ができないのであれば、他社ベストオーナーにそれを委ねることもよい社会づくりの実践である
・低採算の事業で働いている社員は、達成感や自らの成長機会も与えられず不幸である
◎どのようにROICマネジメントに取り組むのか?
ROIC≠ROICマネジメント。ROICという指標自体は、過去の収益性状態を表している結果指標に過ぎない。経営(本社が)ROICを指標としてモニタリングだけを行い事業の責任を追及するだけでは、変えられない過去を議論しているのと同じ。数値の精度を求めて、各事業に対しての必要以上の費用やコストの配賦は要注意だ。逆に本当の収益性が分からなくなり、意志決定を間違うリスクもある。
経営と事業で共通理解や認識を持つ中でROICにより事業の収益性や収益構造を評価し、ROIC構造を起点に事業/会社をどのような収益構造に変革するか、という未来へのアクションにつなげることがROIC経営だ。具体的には以下がROICマネジメントのやり方。
・個別事業に分解して、各事業がハードルレート超えポジションへの向上を狙うのが一丁目一番地
・収益力向上で捻出した原資を活用し、狙った成長領域へ投資
・非注力な事業はベストオーナーへの譲渡も重要な選択肢(選択と集中、ポートフォリオマネジメント)
まずは各個別事業の現状、特性に応じてそれぞれが高収益化を目指し、自社では競争力向上が困難な事業は譲渡する。目指すは高収益事業集合体である。
ROIC改善取り組みへ、目指す収益構造を定めて優先順位を明確にして進めるべきだ。売上総利益率(GP率)と在庫回転率が重要、高優先順位だと私は考えている。この二つは事業の本質的な競争力を表す指標。自社の努力に加えて数値向上のためには顧客やサプライヤーの理解や協力も得る必要がある。単なるコストダウンはダメで、いずれ競争力を失う。
ただし、ROIC構造で分解し分解したサブ指標/KPIをそれぞれの担当部門が取り組んでもなかなか上手くいかない。各指標には因果関係があり、コンフリクトがある可能性があるからだ。個別最適の追求ではなく、関連部門が共通の目標・認識のもと協力して“全体最適”で進めること、すなわち部分最適⇒全体最適へという活動のトランスフォームが必須だ。
課題とは現状と目標の間にあるギャップだ。「全体のありたい姿/目標」の達成に向けて「部門/個人」が、「連結/協力」して都度、合意形成を行いつつ取り組みを推進する——これが全体最適なマネジメントのイメージ。全部門が前提、目的、目標、実行計画を共有して根本原因(課題)を解決し全体目標達成に向けて協力して取り組むのである。
◎オムロンでの全体最適なROICマネジメント実践の挑戦
目標達成を阻害する会社の最大のボトルネック(課題)は、組織ごと、機能ごと、メンバーごとの“個別最適”である。オムロンでは全体最適なマネジメントのトランスフォームへの挑戦を行ってきた。全体最適を志向する中で、全体と個の調和が実現し、各組織のコミットメントに基づく自律的運営がなされる会社への変革を意識してきた。
具体的には、経営チームが一体となって以下のような経営を推進した。
企業理念を求心力に/企業理念を徹底的に浸透させる/明確なビジョン、高い目標を掲げる/社内外から共感、協働を獲得する/経営チームとして一枚岩の運営を目指す/時間をとって徹底的に議論し共通の理解を得る/人事評価、報酬評価にもこの考えを入れ込む/組織間での“連結”を奨励する/コミュニケーション&コラボレーション行動を賞賛する/高い志を持ち、意欲、能力が高くチーム志向の人材を登用する/チームでのチャレンジを奨励する/失敗を称賛し学びとする。
明確化し発信したROICマネジメントの考え方は、以下のスライド(先述と重複する部分もあり)。
上記を踏まえて、企業理念を活動の求心力、戻り所とした。オムロンの社憲(理念)は「われわれの働きで そのわれわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」。企業理念を求心力に事業価値の最大化を狙う「企業理念経営」と、ソーシャルニーズの創造を狙う「技術経営」を推進した。ROIC経営は、よりよい社会づくりへの投資原資を自己で生み出す、という位置付けだ。
オムロンの4つのビジネスカンパニー内の約60の事業のポジショニング、ミッションを明確化し、それぞれの成長性と収益性を見ていた。ROIC逆ツリー展開※とポートフォリオマネジメントの二つの取り組みでROIC経営を推進した。
※各事業の構造・課題に応じたROIC改善の強化項目=ドライバーと、それらを強化・改善するためのアクションとKPIを設定。各事業戦略/活動現場というボトムアップとROIC向上というトップダウンをリンクさせ実行性を高める取り組み。そのためあえて“逆”ツリーとして展開している。
先述のGP率、在庫回転率は最重要項目として全社共通で取り組んだ。特にGPは稼ぐ力であると同時に将来への投資の源泉として最重点項目とし、GP率は毎年着実に向上した。ポートフォリオマネジメント、資源配分、事業買収、譲渡・収束も積極的に行った。生み出した利益を成長投資に振り向け、企業価値(時価総額)を大きく向上させてきた。
オムロン退任後、改めて全体最適な企業へのトランスフォーメーションに向けて「TOC」は非常にパワフルで有用な理論と再認識した。エリヤフ・ゴールドラット著の『The GOAL』(ダイヤモンド社刊)を参考にしてほしい。
※TOC=Theory of Constraints 制約条件の理論。全員が協力してボトルネック解消に集中することで、全体最適の取り組みを実現できる。
TOCでは“流れ”に注目する。ボトルネック工程における流れを阻害するコアの課題を解消することで、全体の流れを改善し、全体効率の大幅向上を狙う。仕事の流れを良くすることで、モノ、お金、情報の流れを良くする。ROIC改善を阻害する要因(ムダ、ムリ、ムラ)を解消し、会社の潜在パフォーマンスを最大発揮することが大切だ。かつてオムロンヘルスケアにおいても、TOC導入によりコアの課題に対応することでROIC改善と事業成長につなげることができた。
全体最適なROICマネジメントの実践で、継続的な企業価値の向上へ。変えられない過去ではなく、変えられる未来にマネジメントを集中しましょう!
2024年5月30日(木) 会場参加及びとオンラインでのハイブリッド開催
source : 文藝春秋 メディア事業局