権限委譲による善循環システム
かつては「ヤンキーのたまり場」だったドン・キホーテ。1号店開店から35年を経て、運営会社のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は売上高2兆円を超す総合小売グループに成長した。驚くべきことに35期連続で増収増益を達成している。中核事業のドンキは20代半ばのZ世代の間では絶大な支持を得る。インバウンド客にとっては日本を代表する観光スポットだ。何がどうしてこうなったのか――本書はPPIHの内側に深く入り込む。
一般に小売大手は本部が意思決定権限を持つ。店舗は本部の指示を受けてオペレーションに専念する。その方が効率よくスケールできるからだ。これに対して、ドンキではそれぞれの店舗が勝手に商品を仕入れる。値付けも棚割りも現場で決める。しかも意思決定の主体は店長ではない。個々の売り場の担当者が自主的に動いて決める。それが「メイト」と呼ぶアルバイトであることも多い。
主権在民ならぬ「主権在現」。徹底して現場に権限を委譲する。消費者と日々接している現場がいちばんよくわかっている。多店舗展開しながらも一つとして同じ店はない。チェーンストアでもなければ個人商店でもない。
顧客に対する提供価値はCV+D+A。コンビニエンス、ディスカウント、アミューズメントのうち、アミューズメントを最優先する。面白い空間を創造すれば必然的にものが売れる。リアル店舗ならではの品揃えと楽しさを追求する。ECの覇者であるアマゾンの真逆を行く。
破天荒に映るが、その実経営の中身は極めて論理的。どうすれば売れるのかと必死に考えて打つ手を探る。すべての棚に従業員の意思を込め、需要を創造する。自分で考えたことだからその答えを知りたくなる。実際に売れた達成感は何物にも代えがたい。成功と失敗から学ぶ。完全実力主義でもギスギスしない。仕事は「ワーク」でなく「ゲーム」。競争をゲームとして楽しむ。それが個を強くする――PPIHのマネジメントの核心にある「権限委譲による善循環システム」は今も昔も変わらない経営の本質を鋭く突く。考えてみればチェーンストア理論がヘンな話で、ドンキこそが商売の王道を往く会社に思えてくる。
海外進出にも積極的。アジアでは日本の「食」に基軸を置いた新業態「ドンドンドンキ」の出店を加速し、日本の顔としてインバウンド客を呼び込む広告塔になっている。キラーコンテンツは焼き芋。一店舗で1日3000本売る。「日本の食は『第2の自動車産業』」と創業者の安田隆夫氏は言う。
トヨタは日本発のものづくりの体系をグローバルな地平で確立した。ドンキは日本発のもの売りの体系を世界に示そうとしている。
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